「エコカーの本命」とされるFCV(燃料電池自動車)、トヨタ「MIRAI(ミライ)」がいよいよ発売される。2014年12月15日は、自動車史の中でも記念すべき日として刻まれるだろう。これを黙って見ていないのが、数ある自動車メーカーの中でも際立ってFCVに力を入れてきたホンダだ。発表されたばかりの「FCV CONCEPT」をベースに、2015年度中に新型FCVの日本発売をめざすという。一気にFCV時代の幕開けとなるのか?

先日取材したイベントにて、トヨタ「MIRAI」の試乗も実施されていた。申込みが殺到し、抽選での試乗車決定となるほどの人気だった

トヨタ「MIRAI」は、「未来」を名乗るに足る先進性の塊に

数週間前のことだが、ある場所で待ち合わせをしたら、その近くにトヨタのショールームがあり、そこには発売前の「MIRAI」が展示してあった。思わず立ち止まって眺めていると、電話が鳴り、どこにいるのか聞かれたので、「ミライがあったんだよ。だからいま、ミライを見てる」と何気なく言った。

そしてはっとした。これじゃあ、トヨタ「MIRAI」こそが自動車の未来、人類の未来そのものだと、このモデルに心酔しきっているみたいではないか! このネーミングにこんな"ワナ"があったとは……。

もちろん、このモデルは「MIRAI」を名乗るに足る先進性の塊といえる。燃料電池技術とハイブリッド技術が融合したTFCS(トヨタフューエルセルシステム)はきわめてエネルギー効率が高く、CO2や環境負荷物質をまったく排出しない。ちなみに、高価な燃料電池を使わずに水素をそのまま燃料にするアイデアもあるが、それを具現化した水素燃料エンジンは少量ながらNOxを発生し、完全な無公害ではない。

「MIRAI」のパワートレーンはFCスタック(燃料電池)と高圧水素タンク、駆動用モーター、それに駆動用バッテリーで構成されている。700気圧という超高圧の水素タンクは122.4リットルの容量があり、3分間の充填で満タンにできる。この燃料で650kmの航続距離を確保しており、インフラ整備さえ進めば、ガソリン車と同等の運用が可能だ。

パワーはFCスタックが155PS、モーターが154PS。加速時はFCスタックにバッテリーのパワーをプラスして使えるため、走りはその数値以上にパワフルだ。しかも、FCスタックや高圧水素タンクなどの重量物がすべて床下に配置されているため、低重心でスポーツカー並みの走りが期待できる。

展示されていた「MIRAI」も近寄れないほどの人気。大量に動員されたトヨタの説明スタッフも引っ張りだこで、非常に突っ込んだ質問をする人が多かった

あるイベントを取材した折、再び「MIRAI」に接する機会を得た。ボンネット内を見ると、目立つ位置にエアクリーナーボックスやラジエーターのリザーバータンクがあって、意外とガソリンエンジン車のボンネットと代わりばえしない。

エアクリーナーが明らかに吸気音を配慮した形状だったので、その点について尋ねると、「吸気音を配慮しない形状ににしたら、とんでもない音になります」とのことで、ガソリンエンジン並みに大量の空気を必要とするそうだ。ラジエーターも同様で、ガソリン車並に発熱するので強力に冷却する必要があるという。

燃料電池というと、音も熱もなく静かに電気をつくり出しそうなイメージがあるが、実際にはそれなりの激しさを持ったシステムのようだ。その大きさも相当なもので、システム全体だと非常にかさばる。「MIRAI」は全長4,890mm・全幅1,815mmと見た目の印象よりかなり大柄なボディなのだが、トヨタに聞いてみると、それでもどうにかギリギリでシステムを詰め込んだという。

車格の割にかなりタイトな室内を見ると、その苦労がしのばれるのだが、それでも外観はすっきりとシャープに見えるから、よくまとめたというべきだろう。

トヨタ「MIRAI」外観・内装イメージ