一般社団法人 Jミルクは9日「第38回メディアミルクセミナー」を実施し、和食の新しい提案といえる「乳和食」について講話した。減塩しながらもおいしさを損なわない「乳和食」を、実際に病院や介護施設での事例を紹介しながらそのメリットを語った。
健康食として評価が高い和食の意外な弱点
第38回となる今回のメディアミルクセミナーでは、実際に医療の現場などで「乳和食」を導入している西村一弘先生(日本栄養士会理事、東京都栄養士会会長、緑風会緑風荘病院栄養室・健康推進部主任)を招き、「乳和食」のメリットなどを講和した。
和食といえば、2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されるなど、ヘルシーで栄養バランスの取れた健康食として世界的にも評価が高い。だが、意外な弱点があるという。「実は、和食メニューではカルシウムとビタミンが不足しがちになります」。ビタミン類はフルーツなどで手軽に補えるが、カルシウムはそのような手軽な食材が多くない。
また、カルシウムは塩と結合して体外に排出されてしまうので、塩分の多い食事をしていると効率的に摂取できない。カルシウムの摂れる食べ物といえば小魚などをイメージするが、塩分を多く含んでいる場合が多く実際の吸収率が上がりにくいという。
「骨粗しょう症の患者さんなどにも、カルシウム摂取を多くするよりも、まず減塩するように栄養指導します。塩分を減らすことで、結果的にカルシウム摂取の効率があがるためです」。本来、ヒトの体は塩分を必要としておらず、できるだけ少量にした方が体への負担が小さい。厚生労働省では2015年から必要な1日の塩分量を男性は9gから8gへ、女性は7.5gから7gへと引き下げた。ただし、日本高血圧学会では以前から6g未満を推奨している。
「減塩かつカルシウム摂取が効率よく行える食べ物として、牛乳は非常に優秀。だが、入院の患者さんの中には、アレルギーでもないのに、嗜好として牛乳をそのまま食事に出さないでほしい、という要望を出す人が1割程度いる」。確かに、和食と一緒に牛乳を飲むことに抵抗感のある人は少なくない。「乳和食」はそのような問題を解決できる新しい和食の提案となる。
実は誤解されている牛乳
牛乳は動物性なのでコレステロールなどが気になるともいわれているが、それは誤解。「コレステロールは決して高くありません。むしろ、高齢者に不足しがちな動物性タンパク質やカルシウム、マグネシウム、リンなどがバランスよく含まれており、カルシウムの量と利用効率は非常に優秀です。BCAAなど、必須アミノ酸も豊富に含まれています」と、栄養価の高さを強調した。
牛乳を使った料理といえば、ホワイトソース系のシチューやミルクベースのスイーツなど、洋食をイメージする人が多い。だが「実は牛乳はうま味の宝庫で、だし汁の代わりに和食にも使えます。うま味がある分、調味料を減らすことができるので、減塩につながる。実際に、病院給食の現場では『ミルク豚汁』『切り干し大根』、塩麹とミルクで鮭を漬け込んだ『鮭の塩麹焼き』など、多くのメニューで牛乳を入れた乳和食を提供している」と、和食と牛乳の親和性を語る。きちんと量を調整すれば、味わいに牛乳くささは残らず、生の牛乳が苦手な入院患者でも気にすることなく乳和食を食べているという。また、牛乳は血糖値の上がり方がゆるやかになるため、乳和食は国民病ともいわれる糖尿病患者にも適している。
病院給食は、かつて「早い」「冷たい」「不味い」と揶揄されるほどだったが、適温で配膳されるなど、改善されてきている。しかし、管理栄養士は十分な栄養と満たし味を向上させながらも、コストを抑えなくてはならない。「乳和食」はコストをあまりかけずに栄養効率を上げることができるので、そうしたニーズにも応えられるという。和食のヘルシーさに加え、低コストながら不足しがちなカルシウムを補いつつ、減塩もできる。それが「乳和食」のメリットだ。
減塩を「うす味でガマン」から解放した「乳和食」
減塩メニューといえば、これまでは「うす味でガマンすること」がほとんど。だが、和食に牛乳を取り入れることで、牛乳の「うま味」や「コク」によって味が濃くなり、うす味にならずに塩分量を減らすことができる。牛乳のタンパク質は加熱によって化学変化を起こすので、分量を調整すれば味やにおいを残すこともなくなるという。減塩を心がけても、おいしくないと続かない。「乳和食」はそんな減塩の悩みを解決してくれる、新しい和食の提案といえそうだ。