函館に古くからあるラーメン店や食堂のメニュー表を開くと、「ラーメン ○○円」と書いてあることがよくある。これを注文すると、まず間違いなく塩ラーメンが出てくる。醤油ラーメンと味噌ラーメンはその通りの名前でメニュー表に書かれているが、塩ラーメンだけは「ラーメン」。それだけ、函館では「ラーメン」といえば塩味が昔から定着しているのだ。
そんな函館の温泉街である湯の川からほど近い場所にあるのは、塩と豚に並々ならぬこだわりを持つ店「グリル塩豚(えんとん)」。同店の人気メニューは、一杯300円という驚きの塩ラーメンである。
味が染み出るチャーシュー付きで300円!
「お値段なりの量か味かなんだろう」などと思いながら注文。しばらくして出てきたのは、ごくごく普通の1人前のラーメンだ。澄んだスープを一口飲むと、雑味のないあっさりとした塩味が口に広がり、後からふんわりとショウガの風味が鼻腔(びこう)を刺激する。チャーシューはかむほどにしっかりした塩味が感じられる。これは300円の味ではない!!
メニューの300円という値段を見て、お子様用の少量ラーメンや具のないラーメンなのではないかと疑問を持つ客も時折いる。だが、会計時には「こんなに安くていいんですか?」と驚愕して帰るそうだ。とはいえ、本当に300円以上払って帰った人はいない。みんな意外とちゃっかりしているのだ。長年にわたって毎日必ず来店する超常連客もおり、1日で平均100杯売れるという。
豚肉を1頭分を余すことなく使用
300円という値段ながら、味へのこだわりは本物だ。香味野菜と鶏ガラ、豚骨でとった「何も足さない、何も引かない」(店主)スープに、結晶化するギリギリにまで煮詰めた塩水で味を付ける。使っている塩は、海水から採取した塩や岩塩などあらゆる塩を試した店主がたどり着いたオリジナルブレンド。塩をそのままスープに加えるのに比べ、一度水に溶かしてから熱を加えたほうがおいしいのだと語る。
「昔、ラーメンは食事と食事の間に食べる、おやつみたいなものだったんだよね」と店主の石橋さん。昭和60年(1985)に塩ラーメンの提供を始めた際、200円という値段を付けたが、人件費の上昇や燃料費の高騰などにともない、近年泣く泣く300円に値上げした。
だからこそ、値段を上げずに提供し続けるための研究には余念がない。毎週、その週に使用する豚肉を1頭分枝肉で仕入れ、自身で切り分ける。バラ肉やロースは看板メニューである塩漬け豚肉、半端な部位はハンバーグ、骨はラーメンのスープに使うなど、余すところなく使用して材料費を抑えている。
本当は塩漬け豚肉も食べてほしい
同店は、昭和49年(1974)に函館市五稜郭町で創業。後に現在の函館市湯川町に移転し、「キャプテン昇輝(しょうき)」として営業していたが、塩漬け豚肉をメイン商品として取り扱いたいとの強い思いから、「グリル塩豚」と店名を変更して現在に至る。
店名を変えるに至った塩漬け豚肉とは、バラ肉やロース肉を3日~1週間以上じっくりと塩漬けしてチルド状態で熟成させたもので、各テーブルでお好みの焼き加減で楽しむことができる。店主としてはラーメンが有名なのもうれしいが、本当は「塩漬け豚肉Aセット」(豚バラ200g、831円)などの塩漬け豚肉も食べてほしいらしい。どちらも塩と豚への店主の並々ならぬ愛情が伝わってくる逸品だ。
※記事中の情報・価格は2014年11月取材時のもの。価格は税込