東海エリアで絶大な人気を誇るラーメンと甘味の店「スガキヤ」。店舗数は実に350店ほどにのぼる。名古屋人が子供の頃から親しむ、正真正銘のソウルフードだ。かくいう筆者自身、物心ついた頃からこの味にどっぷりつかって生きてきた。
始まりは「甘味の店」
さっぱりしたとんこつ味に和風のダシがきいて、子供から大人までなじめるスープ。適度にもっちりした麺、意外とあなどれないチャーシューやメンマの味わい。ここにコショウをかけてツルツルっといただく。うん、やっぱこれだ!
どんなに高級で抜群にうまいラーメンを食べても、最後に行き着くのはこのスガキヤラーメンの味だろう。価格も290円とリーズナブル。食事としてはもちろん、おやつ代わりに食べられるのがいい。しかし、常々不思議に思っていたことがある。「なぜ名古屋なのにとんこつスープ?」「なぜラーメンと甘味のコンビなんだろ?」そんな疑問を解決すべく、スガキヤに話を聞いた。
「まず当社のラーメンは和風とんこつと言われていますが、社内的には決まった呼び名はないんですよ」。そう答えてくださったのはスガキヤ広報担当の吉田学さん。「もともと当社は、『甘味の店』として昭和21年(1946)に創業しました。でもお客さんから『食事ものも欲しい』という声が出てラーメンを出したそうです」。
初めて知った! 店としては「甘味」が本業だったのか!? ちなみにラーメンのスープは、創業当時そのままを継続しているそう。それにしても、どうしてとんこつ味なのか?
「当時周辺の飲食店では、とんこつ味のラーメン店が多かったようです。その風潮をくんで、当社もとんこつ味にしたんです。更に他店との差別化のため、今のような和風味を強調した味にしたようです」。
なるほど。今の常識ならとんこつ=博多風だろうが、終戦直後には名古屋でも普通にとんこつラーメンがあったということか。
都市伝説「ヘビの粉」が入っている!?
面白い話がある。実は筆者が子供の頃、スガキヤのラーメンにある都市伝説があったのだ。それは「ラーメンのスープに隠し味として『ヘビの粉』(ヘビのエキス?)が入っているぞ!」というものだった。あのウワサ。果たして本当なんだろうか?
「あ。それですか。ワハハハハ」大笑する吉田さん。「ヘビの粉が入ってるなんてありえません。ただ昔はラーメンの成分を秘密にしていたんです。この種の都市伝説へのお問い合わせにも、『ヒミツです』としか答えなかったようなんです。だってミステリアスで興味をそそるじゃないですか」。
ちなみに「今はサイト上で成分を明記しているのでご覧ください。そしてご安心ください」と吉田さん。
スガキヤでラーメンとともに外せないマストアイテムが「甘味」だ。中でも「クリームぜんざい」(200円)は不動の人気を誇る。ラーメンを食べて少し口が塩辛くなったところで、このクリームぜんざいを食べる。さっぱりして本当に「おいしい」の一言に尽きる。
この「ラーメン後の甘味」という黄金率は、いつ頃から成立したものなのだろう。「当社は甘味店から始まっています。ですから甘味があるのは当たり前のこと」と前置きする吉田さん。
そして、「開店当時から、温かいぜんざいはあったようですね。その後、アイスクリームもメニューになりました。どこかのタイミングで、ぜんざいとアイスクリームが合体したんでしょう」と、吉田さんも疑問に感じているよう。
ちなみに「クリームぜんざい」は看板商品のひとつとして位置づけており、北海道産の小豆を使うなど品質にこだわっているそうだ。確かに店内を見回すと「クリームぜんざい」率はかなり高い。シンプルだけどくせになる味だから、毎回注文する人も多いのかもしれない。
ニューヨーク近代美術館でも発売中のフォーク
スガキヤの大きな特徴のひとつにラーメンフォークがある。「割り箸の大量消費がもったいない」という理由で、今から35年前の昭和53年(1978)に導入されたもの。 フォークのついたレンゲという形で、割り箸の全廃を目指した。エコの走りだが、「やっぱり箸の方が食べやすい」と結局レンゲとして使われている。
そして、2006年には華々しくリニューアル。フォーク部分が中央になったシンメトリーな形になり、「右利きでも左利きでも使えます。工業デザインとしての評価はすこぶる高く、ニューヨーク近代美術館のショップでも販売されているんです」とのこと。
吉田さんは「ラーメンフォークは当社のシンボルのひとつ。実際ラーメンフォークでラーメンを召し上がるお客様も増えていると思いますよ」。
おなじみの味に加え、「ざる担々麺」(390円)など新しい味にもチャレンジしているスガキヤ。これからも名古屋人のソウルフードとしてその地位を守り続けてほしい。
●Information
スガキヤ大須店
名古屋市中区大須3-45-2吉正ビル1F
※記事中の情報・価格は2013年7月取材時のもの