12月6日に公開された『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』

アニメーション映画『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』が12月6日より公開された。同作は、2012年より上映された『宇宙戦艦ヤマト2199』(2012年)の完全新作劇場版だ。本作の公開に至るまでの過程は、近年のアニメにおける「ウィンドウ戦略」(一つの作品のリリース時期をメディアごとに順序をつけて展開する戦略)の代表的な例といえる。本作の歩みを通じて、現代のアニメビジネスのあり方を見てみよう。

『宇宙戦艦ヤマト2199』(以下『2199』)は、1974年にTV放送された『宇宙戦艦ヤマト』(以下『ヤマト』)のリメイク作品だ。西暦2199年、地球は謎のガミラス星人の攻撃により絶滅の危機に瀕していた。そんな地球に宇宙の彼方、大マゼラン星雲にあるイスカンダル星から救いの手が差し伸べられる。イスカンダルには、汚染された地球を救うことのできるシステム「コスモクリーナーD(『2199』ではコスモリバースシステム)」があるというのだ。人類の最後の希望を託されたヤマトは、沖田十三艦長の指揮のもと前人未到の大航海に出発することになる。

1974年当時、アニメはまだ「テレビまんが」と呼ばれることが多く、小学校卒業とともに"卒業"するものだった。だが「大宇宙を舞台にした冒険航海というロマンあふれる設定」「SFマインドあふれる緻密なメカニック描写」といった『ヤマト』の魅力は、10代に熱狂的なファンを生んだ。こうしたファンの支えにより、1977年にはTVアニメを再編集した劇場版が大ヒット。これを起点としてアニメブームが巻き起こることになった。

『2199』はこのような伝説的な作品を現代に蘇らせるべく制作された。リメイクにあたっては「オリジナルを尊重する部分」と「現代的にアップトゥデートする部分」が慎重に選択された。音楽や効果音、メカデザインについては極力オリジナルを尊重し、一方でキャラクター描写やSF設定などは現代の視線で新たに再構築された。

『2199』はオリジナルと同じ全26話ということで制作が進んでいたが、ファースト・ウィンドウとして選ばれたのは映画館におけるイベント上映だった。全26話を全七章に分け、全国10数館の規模10館で数カ月おきに上映していくスタイルが選ばれたのだ。『2199』のウィンドウ戦略の特徴はここに端を発している。

そもそも連作シリーズを劇場で上映するというスタイルの嚆矢となったのは2007年から公開された『劇場版空の境界』シリーズだ。奈須きのこの同名伝奇小説を完全アニメ化し、2007年から2009年にかけて全7章を公開。本作が大ヒットを記録したことで、業界内で60分前後の連作を映画館で上映する企画が検討されるようになる。そうした企画の中でも特にめざましいヒットとなったのが『機動戦士ガンダムUC』。福井晴敏の同名小説のアニメ化で、2010年から2014年にかけて全7章で上映された。

『空の境界』と『ガンダムUC』の大きな違いは、前者が「映画」として企画されていたことに対して、後者はあくまでOVA(オリジナルビデオアニメ)として企画されていたこと。そのため『ガンダムUC』はあくまで「ビデオ用作品イベント上映」の扱い。だからこそ上映と同時に劇場でBlu-rayの販売も可能となり、これが非常によく売れたことも話題になった。

ちなみに『2199』の場合は、劇場上映時に「劇場限定版」Blu-rayの発売とVOD(ビデオ・オン・デマンド)による配信、その後1カ月後に正式な商品(Blu-ray&DVD)がリリースされるというタイムスケジュールが組まれていた。OVAのイベント上映は、映画館サイドにとっても魅力的な案件だった。数年前からよく使われるようになった言葉に、ODSというものがある。これはOther Digital Stuffの略で、「非映画デジタルコンテンツ」とも呼ばれている。一言で言えば、映画館を映画だけでなく、それ以外の映像メディアを見ることのできる場所として活用していこうというものだ。OVAだけでなく、オペラや歌舞伎などを収録した映像や、各種ライブビューイングなどがODSに相当する。

つまり「TV以外のファースト・ウィンドウ」を探していたアニメ業界と、「映画以外のコンテンツ」を探していたシネコンの利害が一致したところで、イベント上映が成立しているのである。TV用に企画されながら、イベント上映されることになった『2199』はそうした状況の産物だったのだ。

なお、ファースト・ウィンドウが映画館であるメリットは、まず制作スケジュールにある。毎週1話ずつ制作しなくてはならないTVと違いイベント上映は数カ月に1回の公開なので、TVよりもリッチでクオリティ感のある画面と作り出すことができる。逆にデメリットとしては、知名度の低いタイトルでは集客が難しいという点が挙げられる。この点でも『2199』はイベント上映に向いていたことがわかる。

『2199』のウィンドウ戦略が面白いのは、こうしたイベント上映とVOD配信が継続する2013年4月からTV放送も始まったということだ。つまり2013年の4月~10月の期間は、「イベント上映」「パッケージソフト(Blu-ray)「TV放送」「VOD」という四つのウィンドウで『2199』が展開されることになった。偶然そうなった部分も少なからずあるとはいえ、これはアニメのウィンドウ戦略としては非常に珍しいケースである。

そしてTV放送による視聴者のすそ野の広がりは、イベント上映の動員に反映した。特に第23話~第26話をまとめた第七章は、TVで第22話を放送終了したタイミングでの上映開始となり、興行収入1億円を突破するヒットを記録するに至ったのだ。

今回の『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』は、こうしたヒットを受けて企画された完全新作映画である。こちらは全国89館で公開される正式な映画である。描かれるのは、ヤマトがイスカンダルからの復路で出会った「ガトランティス」という新たな敵との戦い。一刻も早く地球へ戻りたいヤマトと新たな敵ガトランティス、そこにガミラス残党が絡んで物語が展開する。

仮に『2199』が当初の予定通りTVをファースト・ウィンドウとして展開していたら、果たして完全新作映画に到達するほどの盛り上がりを獲得することができていただろうか。それを考えると『2199』というプロジェクトは「イベント上映」「パッケージ販売」「TV放送」「配信」というそれぞれのウィンドウでの展開タイミングとその特性が見事に絡み合った結果のヒットであったということができる。

2014年も『攻殻機動隊ARISE』や実写『THE NEXT GENERATION パトレイバー』といった作品がイベント上映形式で複数話上映された。どちらも人気シリーズの最新作で、おそらく今後しばらくはこうしたウィンドウ戦略は続くだろう。その上でファーストウィンドウとしてイベント上映が定着するかどうかは、これから「知名度のあるタイトル以外のヒット」がそこから生まれるかどうかにかかっているといえる。

(C)西崎義展/2014 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会