いま、紛争エリアにおける飛行ルートの在り方が問われている

7月17日、マレーシア航空17便オランダ・アムステルダム発クアラルンプール行きがウクライナ東部で墜落し、乗客・乗員298人全員が死亡した。それから2週間が経過したいま、紛争エリアの上空を飛行すべきか否かという議論、また、迂回によるコスト増への航空運賃の引き上げへの議論が展開されている。

紛争エリア上空は飛行禁止ではない

今回の事件が起こる前、マレーシア航空をはじめとした東南アジアからヨーロッパへの路線においては、ウクライナ上空が最短ルートであることから、ウクライナの航空管制(航空当局)の許可を得て飛行していた。なお、日本発着のヨーロッパ路線はシベリア上空を飛行するため、もともとウクライナ上空は飛行ルートになっていない。

紛争地域であっても高度の高い位置を飛行する民間機を狙うという可能性はこれまで極めて低く、飛行禁止にはなっていないケースがほとんどである。それでも一部の航空会社は、自主的に紛争地域の上空を避けて飛行していたが、今回のウクライナ上空においては、ヨーロッパやアジアの航空会社の多くが領空を管理する当局から許可を得て飛行していた。

事件前までは通常のルートとして飛行していたことを考慮すると、今回、マレーシア航空に墜落の責任を問うのは難しいと考える。事件以降は、他の航空会社もウクライナ領空を飛行せずに、ロシアやトルコ、ブルガリア、グルジアなどのといった迂回ルートを使って飛行している場合が多い。

一般的に欧州路線の飛行機は、欧州の航空管制を管理するユーロコントロールや、各国の航空管制(航空当局)の許可を得て飛行することになる。例を挙げると、あるアジア系航空会社では、天候や「NOTAM」(Notice to Airman、航空機の安全運航のために各国政府などの関係機関が出す重要な情報)、さらに、海外地域の勧告などを受けて飛行ルートを決定している。

事前にルートをチェックする方法も

各航空会社は事件後、様々な対応をしているとはいえ、自分が搭乗する飛行機はどういうルートを行くのか、事前に知ることができればと思うだろう。そんな時に参考にしたいサイトが「flightradar24」である。

「flightradar24」は飛行機ファンや航空関連メディアの多くが活用しているサイトで、パソコンだけでなくiPhoneやAndroid携帯にも専用アプリがある。これを活用すれば、飛行中のほとんどの飛行機の現在地をリアルタイムで確認することができる。

事件後の7月下旬にウクライナ上空を飛行する飛行機をチェックすると、西部にある首都・キエフを発着する便をはじめ、一部の航空会社は墜落事故後もウクライナ上空を飛行しているようだった。しかし、周辺エリアに比べると非常に少ない便数となっており、多くの航空会社が避けていることが分かる。

なお、墜落したウクライナ東部については空域が閉鎖されており、飛行している便を確認することはできなかった。加えて、墜落事故後、マレーシア航空が同じく戦闘状態にあるシリア上空を飛行しているなどという報道もあったが、現在はシリア上空の飛行を取りやめている。そのほかの航空会社においても、シリア上空を飛行する飛行機を確認することができなかった。

迂回ルート路線の運賃値上げも検討

ウクライナ領空周辺を避けて迂回するということは、最大で数十分飛行時間が長くなり、それに伴って燃料費もかさむことになる。エールフランス・KLMグループのアレクサンドル・ドジュニアク最高経営責任者(CEO)は7月25日(フランス現地時刻)、ルート延長によって発生するコストを運賃に還元する必要性があることを発表している。現在、迂回による値上げを展開している航空会社はないが、今後の状況次第ではそうした対応が求められることにもなるだろう。

1万m以上の高度でおきた今回の事件は、紛争エリアにおける飛行ルートの在り方に一石を投じたことは間違いない。一方、航空会社においても原油価格高騰による燃油費が大きなコストになっており、できる限り最短ルートで飛びたいというのは言うまでもない。とはいえ、安全なフライトを利用者に提供する義務がある。この点について、国連の傘下にある国際民間航空機関(ICAO)を中心とした国際レベルでの議論をするべきであり、現在その方向に向かいつつある。飛行するかそれとも迂回するのか、その線引きの難しさは航空会社にとって悩みの種になりそうだ。

※本文と写真は関係ありません

筆者プロフィール : 鳥海高太朗

航空・旅行アナリスト、帝京大学理工学部航空宇宙工学科非常勤講師。テレビ、ラジオ、雑誌などの各種メディアにて情報発信をしている。航空・旅行業界に関する役立つ情報を「きまぐれトラベル日記」にて更新中。