世界遺産にもなった厳島神社のある宮島で昔から親しまれているご当地メニューが「あなごめし」だ。昔、宮島であなごがよく獲れたことからあなごの蒲焼がのった丼が名物料理になったという。実際、「あなごめし 宮島」で検索すると何十軒ものお店がヒットする。「あなごよりうなぎ」と思っているあなたに、あなごの魅力をお届けしたい!
冷めた状態で一番おいしい味わい
JR宮島口駅を降りてまず向かったのが、創業明治34年(1901)、あなごめしの老舗中の老舗である「うえの」。ここで購入できる「あなごめし」の駅弁(1,728円)こそが、宮島あなごめしのデフォルト的存在だ。
何はともあれその味を確認してみよう。厳島神社の描かれている包装紙(絵は何種類かある)をはがし、木の折り箱を開けて出てきたのは、ツヤッツヤに輝くあなごたち。炊き込みご飯の上にはあなごの蒲焼きが敷き詰められており、とろりとした甘口のタレが絶妙。
「当店の原点は駅弁屋なんです。駅弁なので、冷めた状態で一番おいしい味わいであるように調製しています」。そう説明してくれたのは社長の上野純一さん。ご飯はあなごの骨と頭でスープを作った炊き込みご飯で、それにあなごの蒲焼きを乗せている。
「木箱がご飯の水分を、ご飯が蒲焼きの脂を吸い取ってくれます。だからベチャベチャしないんです」。なるほど。程よい味の染み込み具合はもちろん、木箱のほのかな木の香りも含めての仕上がり。これはレンジであっためるなんてご法度だろう。「お弁当を温めて食べたいなら、あさりの貝汁やスープなどを一緒に飲むといいですよ」とのこと。
ちなみに、店舗では温かいあなごめしも食べられるというが(同価格)、出来たてならではの味も格別だ。上野さんによれば、あなごめしの店は現在、宮島口で4軒と宮島で12軒あるそうで、「それぞれの店が独自の味で競っています」と教えていただいた。同じ暖簾でも、それぞれ個性が生きた味わいのようだ。
ベストな大きさのあなごを使用
次に足を運んだのは、うえのと同時期に創業した「ふじたや」だ。ココの「あなごめし」は2,300円。「とにかく素材がいちばん大事。あなごは地元や瀬戸内海産のものを使っています」と言うのは4代目店主の藤田守さん。
食べてみると、あなごが実にふんわりしていて口の中でとろけそう。「タレは、濃い口醤油と味醂、砂糖を基本に、継ぎ足して味を深めています。あなごのタレは甘くても辛くてもいけないんです」と説明してくれたが、確かに、ものすごく絶妙なバランスに仕上がっている。
「あなごは仕入れで1kg10匹くらいのが一番おいしいんです。小さくても大きくてもいけない。それが一番大事」と仕入れのコツまで教えてくれた。
●information
ふじたや
広島県廿日市市宮島町125-2
あなごめしは地酒とともに
最後に訪れたのは、地元の地酒も豊富な「もみじの木」。「あなごめし」は1,550円で、このワンランク上に「特製あなごめし」なるメニューがある(1,800円)。「あなごの質がいいんですよ。できたてを食べてください」とオーナーの竹内富子さん。
食べてみるとさすが特製! アツアツの炊き込みご飯とあなごの蒲焼を一緒に食べると、実に濃厚な味わいである。まったくクドくないのがウナギとの違いだ。「土日はほとんど観光客ですねえ」と言うが、事実、老舗らしく格式が高いというより、気軽に入れる雰囲気があるのがウケているのだろう。
●information
もみじの木
広島県廿日市市宮島口1-5-10
確かに店ごとに違う味わいのあなごめし。ハシゴしてお気に入りの店を見つけてみてはいかがだろうか。
※記事中の情報・価格は2014年5月取材時のもの。価格は税込