中国と韓国が政治的にも経済的にも急接近の構えを見せている。中韓がなぜ急に親密になるか不自然なところもあるが、両国の置かれた政治・経済的状況を考えると、十分に計算し尽くされた行動であることがわかる。

中国の習近平国家主席は3日、韓国を訪問し、朴槿恵大統領と会談した。中国の国家主席が就任後、北朝鮮より先に韓国を訪れるのは異例だ。両国首脳は会談後、北朝鮮の核開発に反対する方針を確認したほか、両国間の自由貿易協定(FTA)の年内締結を目指す方針を示すなど、政治・経済両面での接近をアピールした。

中国に接近することは、韓国には経済的メリットがある。韓国企業は、世界中で日本企業と競争している。中国市場でも競争は激しい。近年、大幅に円安・韓国ウォン高が進んだために、韓国製品の日本製品と比較した価格競争力はやや低下している。ここで、日中韓FTAに先んじて中韓FTAを実現すれば、韓国企業は中国向け輸出で、日本企業に対して関税面で有利に立つことができる。さらに、政治的なつながりが重要な中国の国家プロジェクトへの参画でも、メリットがありそうだ。

日中関係悪化で、2012年以降、日本製品は中国市場でシェアを低下させてきた。代わりに、ドイツ製品や韓国製品がシェアを上げたところもある。韓国から見ると、中国市場で日本製品をさらに追い落とすのに、今は好機と映っているかもしれない。

韓国が中国に接近するのは、政治的には日本に対抗するための色合いが濃い。ただし、韓国内に中国に接近しすぎることへの警戒論もある。韓国にとって、米国は政治的にも経済的にもきわめて重要なパートナーである。中国に接近しすぎると、米国との関係にマイナスの影響が及ぶリスクもある。

一方、中国が韓国に接近するのは、多分に政治的な理由によると考えられる。韓国へ接近することは、中国の指導力が及ばなくなってきた北朝鮮に対するけん制の意味もある。また、中国の海洋進出に対してベトナム・フィリピンなどの周辺諸国および米国が警戒感を強めていることに対抗する狙いもある。韓国やロシアとの関係を改善することで、東アジアで中国が孤立することを防ぐことを目指していると考えられる。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。