日常的に接する言葉で、意味は分かっているし、比較的簡単な漢字でもあるのに、つい読み方に迷ってしまうといった経験はないでしょうか。

例えば、建築や土木工事の現場でよく耳にする「施工」も、そんな言葉の一つでしょう。「施工」の正しい読み方は「せこう」か、はたまた「しこう」か。今回は、そんな疑問に迫ってみましょう。

  • 「施工」の正しい読み方とは?

    「施工」の正しい読み方とは?

86%が「せこう」と読んでいる

まず、みなさんは実際に「施工」をどう読んでいるのか。2014年と少し古いデータですが、30代~60代のマイナビニュース会員300人に行ったアンケートがありますので、見てみましょう。

Q.「施工」の読み方、どちら派ですか?

「せこう」(86.0%)
「しこう」(14.0%)

■「せこう」派の意見

・「建設会社に勤めているので、『せこう』と普段から言っている」(28歳女性/建設・土木/技術職)
・「『せこう』だと分かるけど、『しこう』だと思考とか施行と思うから」(30歳女性/電力・ガス・石油/事務系専門職)
・「『せこう』。『しこう』は、思考や嗜好、試行等のほかの『しこう』と勘違いするからです」(29歳男性/運輸・倉庫/技術職)
・「親が仕事でよく使う言葉で、『せこう』って言っている」(22歳女性/情報・IT/技術職)

■「しこう」派の意見

・「学校のテストで『しこう』と書いた記憶がある」(25歳女性/商社・卸/秘書・アシスタント職)
・「まわりもほとんどこの読み方を使っているから」(22歳男性/食品・飲料/販売職・サービス系職)
・「小学校でそう習った」(31歳男性/商社・卸/事務系専門職)
・「家を建てたときに、業者の方が『しこう』と言っていたから」(53歳男性/電機/技術職)

調査時期: 2014年6月5日~2014年6月7日
調査対象: マイナビニュース会員
調査数: 男性137名 女性163名
調査方法: インターネットログイン式アンケート

「施工」は「せこう」「しこう」どちらも間違いではない

上記の調査の結果では、「せこう」と読む人が9割近くとなり、圧倒的多数が「せこう」派であることが分かりました。それでは、「しこう」派は間違っているということなのでしょうか。詳しく調べてみると、事態はもう少し複雑そうです。

まず、「施工」の意味から確認していきましょう。「施工」は土建用語で、「工事を行うこと」を言います。「住居やビルを施工する」「道路やダムを施工する」など、建築や土木の作業することを意味しているわけです。

そして本来、「施工」は「しこう」と読みます。ただし、建設現場では慣習的に「せこう」と読むことが多く、「施工」から派生した用語「施工会社」や「施工主」もそれぞれ、「せこうがいしゃ」「せこうぬし」と読むのが一般的です。

先のアンケートで「せこう」が多数派となったのは、この「施工」の慣用読みが一般にも定着した結果と思われます。コメントにも、「建設会社に勤めているので、『せこう』と普段から言っている」(28歳女性/建設・土木/技術職)と、まさに現職にいる人からの声がありました。

「施工」の伝統的な読みが「しこう」、慣用読みが「せこう」で、どちらも正しいというのが、ひとまずの解答と言えそうです。

よく似た言葉「施行」も「しこう」「せこう」と読むことができる

それでは、もともとは「しこう」だったものが、なぜ「せこう」と読まれるようになったのか。これは、似たような言葉である「施行(しこう)」と区別するため、と言われています。アンケートでも、「『せこう』だと分かるけど、『しこう』だと思考とか施行と思うから」(30歳女性/電力・ガス・石油/事務系専門職)という指摘がありましたね。

「施行」には主に2つの意味、一般的な「実行すること」、そして法律関係で使われる「公布された法令の効力を現実に発生させること」があります。この法律関係の「施行(しこう)」との混同を避けるために、土建用語の「施工」は「せこう」と読むようになったと言われています。ちなみにNHKでも「施工」は、この「せこう」の読みを採用しています。

ただし、「施行」も「せこう」と読むことは間違いではありません。一般的な辞書の主見出し語は「しこう」となっていますが、「せこう」とも読む、と記述されています。また、同じ法律関係の言葉である「執行(しっこう)」と区別するために、発音が紛らわしい「しこう」ではなく、あえて「せこう」と読む法曹関係者もいるようです。

さらに、「施行」は「せぎょう」あるいは「しぎょう」とも読み、前者は仏教用語で「布施行を行うこと」、後者は「(主に中世の日本で)命令や判決を実行させること」を意味します。

「施工」「施行」読み方・意味についてのまとめ

説明が少し入り組んできたので、ここで簡単に整理をしておきましょう。

・「施工」

土建用語で、「工事を行うこと」。伝統的な読みは「しこう」だが、慣用読みでは「せこう」が多く使われ、一般にも浸透している。NHKでも「せこう」の読みを採用。

・「施行」

法律関係では、「公布された法令の効力を現実に発生させること」。読みは「しこう」。ただし、「執行(しっこう)」と区別するために、「せこう」と読むこともある。ほかに、仏教用語などで「せぎょう」「しぎょう」の読みもあり。

さて、ここまで見てきたように、「施工」の読みは「せこう」でも「しこう」でもどちらも正しく、一方が間違っているわけではありません。また、「施行」との混同を避けるために「せこう」読みが多く使われており、現在ではこちらが多数派になっています。

結論としては「施工」は「せこう」と「しこう」、どちらで読んでもかまわないものの、その意味や、「施行」との違いをしっかり理解して使っていきたいものですね。