香港の九龍半島にある下町エリア・ジョーダン(佐敦)。ナイトマーケットで有名な「男人街」や調理器具のそろう「上海街」など、ディープ香港の入り口としても人気のエリアだ。ここにこだわりが強すぎる、香港でも珍しいブティックホテル「Hotel Madera Hong Kong(マデラホテル)」がある。
「あの頃の香港」への敬愛にあふれる空間
まず驚くのが、ロビーの一角にあるカーテン奥のギャラリーだ。カーテン奥、というと妖しげな感もあるが、カーテンをめくった途端に1960年代にタイムスリップしたかのような異空間がお目見えする。古き良き時代の生活を再現したというこのスペースは、ギャラリーというよりプチ博物館だ。
中に入って目を引くのがフォード社製1935年型クラシックカー。そのまわりを囲むように、当時はすし詰めで寝泊まりしたという居住空間や、日用品から食べ物まで何でもそろっていたよろず屋、老若男女が興じたマージャン卓など、香港の歴史を語る様々な小道具や家具が展示されている。今でもその当時の雰囲気や街並みを残しているジョーダンというエリアだからこそ、香港の歴史を尊重し訪れた人に知ってもらいたい、という思いからこのギャラリーを作ったのだという。
また、返還前のイギリス色豊かだった時代へのオマージュを形にしたのが、カフェテリア「Cafe1997」。当時のアンティーク家具や官僚が使っていた小物や会議室など、こちらもまた香港の別の顔を体験できるのだ。
クスッと笑いたくなるデザインも
マデラとは、スペイン語で「木」の意味。館内のあちこちに天然の木や植物があしらわれており、緑豊かな印象を受ける。テーマカラーはライムグリーンとブラウンで、それに合わせたスペインテイストな原色の色遣いがそこかしこに配されている。そのせいか、シティホテルなのにビーチリゾートのような開放感があるのだ。実際、3つの客室フロアといくつかの共有空間を、スペインのデザイン事務所「Lagranja Design」が設計しているという。
そのひとつがアスレチックジム。中に入ると壁一面の大きな写真が目を引く。"筋肉をつけると女性にモテるよ"や、"何でも持ち上げられるよ"など、ユーモアたっぷりな1940年代の小粋な写真なのだ。いつもとはちょっと違った楽しい雰囲気で、エクササイズを長めにしてしまうかもしれない。
客室にも斬新さがいっぱいだ。スペイン人デザイナーが手がけた16階のラッシュ・スイートは、テラスともいえる広めのベランダを擁し、部屋の真ん中にバスタブがある。香港の摩天楼を望む露天風呂感覚が楽しめるのだ。なお窓ガラスは、外からは見えないマジックミラーなのでご安心を。
さらに開放的なのは、屋上29階にある屋外バー「ホライゾンラウンジ」。このエリアで一番高い建物なので視界を遮るものは何もなく、香港島の音と光のショー「シンフォニー・オブ・ライツ」も見渡すことができるのだ。この高層階の屋外バーは九龍側では珍しく、夜景スポットの穴場として地元のビジネスマンにも人気なのだそうだ。
スマホも無料で貸し出しするサービス精神
「木」をモチーフとしているのはデザインだけじゃない。喧噪の香港の街から戻ってくるとオアシスのように迎えてくれるのは、ロビーの壁一面に生い茂っている天然植物。家に戻ってきたかのようにくつろいでほしいという、スタッフのサービスも心地よい。マデラホテルの広東語は「木的地飯店」。その名の通り、自然体でいられるようなサービスが、数々のトラベルサイトで表彰されているのもうなずける。
おもてなしサービスの一環として、数種のドリンクやお菓子、カップ麺まで備えたミニバーはすべて無料(滞在中補充はなし)のほか、アレルギーの人専用フロアでは弱酸性のオーガニックタオルを用意。さらには、市内通話、3G通信も完全無料のスマホの貸し出し(香港ガイド付き)も開始したという。"ここに泊まりたい"と思わせてくれる質の高いサービスが尽きないのだ。
●infomation
「Hotel Madera Hong Kong(マデラホテル)」
料金: デラックスダブル(24~26平方メートル)/1,200香港ドル(約1万5,800円)~
※1香港ドル=13.2円で換算。記事中の価格・情報は2014年6月取材時のもの