ディズニーアニメ『眠れる森の美女』を邪悪な妖精マレフィセントの視点から描いた、アンジェリーナ・ジョリー主演『マレフィセント』が7月5日、公開を迎える。ファンタジーの世界を実写化した本作では、CG技術が大きく貢献しており、物語の重要な鍵となるマレフィセントの羽や、ピクシー(妖精)は、米VFXスタジオのDigital Domain(デジタル・ドメイン)が作り上げた。そのメンバーとして開発に携わった日本人クリエイター・三橋忠央氏に、技術開発の過程やこだわりについて聞いた。
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1971年東京生まれ。東海大学卒業後に渡米。サンフランシスコの美大Academy of Art College(現・University)の大学院を卒業する。2006年よりアメリカのVFXスタジオ・Digital Domainに所属。主な参加作品は映画『マトリックス』シリーズ、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』、『トロン:レガシー』など 撮影:蔦野裕 |
――本作で三橋さんが担当されたところを教えてください。
一つは、アンジェリーナ・ジョリー演じるマレフィセントの羽です。動かないところは衣装の羽を使ってますが、動くところをすべてCGで作りました。もう一つは、オーロラ姫の世話をする3人のピクシー(妖精)です。
――マレフィセントの羽はどのように作ったのでしょうか?
実物の衣装の羽を完全に再現するかたちで取り組みました。映画では、衣装の羽とCGの羽の両方が出てくるので、まったく違いを感じさせないレベルにしなければいけませんでした。そのためにまず、衣装の羽を徹底的に分析するんです。その際、鳥の解剖学のような資料を参考に羽の構造を調べ、真ん中の骨のようなところから毛が生えていて、さらにその1本1本からも毛が生えていることがわかってきました。そういう細かいところまで全部作りこむんです。また、布の研究論文も参考にしました。布の繊維は何本も交差していますが、その交差を一方向だけにすると羽の構造に似ていることがわかり、その構造を再現しました。
――1つ基本となるものを作れば、どんなシーンでも対応できるのでしょうか?
そうなんです。物理的にどういう風になっているのか、完全にコンピュータの中にシミュレーションするというアプローチをしていて、ある1つの場所ではこういう風に見えるという基本を作れば、あとはどこにもっていっても大丈夫なんです。そこからやるべきことは、それぞれの撮影セットのライティング環境をきちんと取り込むだけなんです。ですので、ハリウッドの大作と言われるような映画は、制作に1年から2年、時にはそれ以上の時間を割くのですが、最初の半分くらいは、実際に映画でみなさんが見る部分を作るのではなく、研究開発のところなんです。
――3人の妖精に関しても、同じアプローチだったのでしょうか?
同じです。まずは、ピクシーを演じる3人の女優さんのデジタルバージョンを作ります。それが完成したら、プロポーションを少しずつ変えていき、一番いいバランスを探るという流れでしたね。コンピュータグラフィックスで人間の頭部を作るというのは4回目くらいのチャレンジでしたが、今回は、今までにない難しさがありました。というのも、プロポーションが実物の人間とは違うので、見慣れている人間と少しでもずれていると、それを気持ち悪く感じてしまうんです。その落とし穴が大きいなと感じました。また、ピクシーは、妖精になったり人間に戻ったりするので、どちらの時も違和感のないように、顔の動かし方など特徴をつかむことを意識しました。
――妖精の表情を作るのに、デジタル・ドメインが開発した"エモーションキャプチャ"という技術が使われているとのことですが、どういった技術なのでしょうか?
顔につけるポイントをコンピュータ上で60~70個作り、それを移動させ何通りもミックスし、より複雑な感情表現を作り上げるという技術です。従来のモーションキャプチャでは、あとから違う表情を作ってほしいと言われても対応できませんでしたが、エモーションキャプチャでは、俳優ができなかった表情も作ることができるんです。ですので、ピクシーの表情は、実際に演じた女優さんたちが多くのパーセンテージを占めていますが、デジタル・ドメインのアニメーターがさらに演技をその上につけているんです。
――本作で何か新しい技術は使われたのでしょうか?
顔を赤くする技術は、今回新たに開発した技術です。3人のピクシーの1人であるノットグラスは、よく怒っているキャラクターで、怒るとカーッと顔が赤くなりますよね。その顔が赤くなるというのをシステムの中に組み込み、ある特定の表情になると、自動的に顔が赤くなるというのを実現しました。また、顔の表情や髪の毛の技術も大幅に手を加えました。ピクシーの顔のバリエーションが複雑だったので、エモーションキャプチャを改良する必要があったんです。そして、シスルウィットというピクシーを演じたジュノー・テンプルの髪がとても複雑で、髪型をスタイリングするツールも大幅にテコ入れしました。
――ロバート・ストロンバーグ監督とのやりとりで印象に残っていることはありますか?
ピクシーの表情に関して、演じられた方々のパフォーマンスをどれだけ忠実に再現しているかということをとても気にされていました。女優さんとピクシーバージョン、本当に表情が一緒になっていると思いますが、ここに到達させることをものすごく要求されましたね。マレフィセントの羽においても、衣装の羽と違いを感じないレベルまでもっていくことが重要なポイントでしたね。監督は、『アリス・イン・ワンダーランド』や『アバター』でプロダクションデザインを担当しオスカーを受賞されている方なので、この作品はもってこいというか、すごくいいマッチングだったと思います。われわれとしても、技術的な話もスムーズにできましたし、監督が明確なイメージを持たれていたので、とてもやりやすかったです。
――今後、CG技術を生かして実現したいと思っているものはありますか?
『うる星やつら』のラムちゃんを作りたいんです! 大ファンだったので。ラムちゃんをリアルで作れたら、ググッとくるものがあるんじゃないかなと思いますね。僕たちの世代の男の子って、ラムちゃんか、メーテル(『銀河鉄道999』のヒロイン)のどっちかというのがあって、僕はラムちゃん派だったんです(笑)。
――最後に、『マレフィセント』公開を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします!
すごく幻想的で、CGがとても幸せな使われ方をしている作品に仕上がったと思うので、ぜひ劇場で見ていただきたいです。特に女性の方には楽しんでもらえるラブストーリーになっていると思います。そして、羽と言ってもそれ自体が1つのキャラクターであるかのような描かれ方をしているので、躍動感ある羽に注目していただきたいです。あと、映像とは関係ないですが、エル・ファニングがとてもかわいいです(笑)。