ビットコインの量に上限がある理由は?

――新聞などでは、ビットコインの量には上限があると説明されていますけど、何で上限があるのですか?

なぜかというと、さっきのブロックチェーンで、今28万ブロック台ですが、最初1個目から21万個目までのブロックを発見した人は1ブロックあたり50BTCもらえたんです。そういうルールなんです。21万1個目から42万個目まで、今ここですね、25BTCで、その次は12.5BTCなんです。

――そういうプログラムになっているんですね。

こうして半分ずつになっていくと、ビットコインって1億分の1ビットコインしか割れないので、そのうちそれを下回ります。すると掛け算してもゼロになる。

――いつか1億分の1ビットコインになるわけですね。

下回るはずだと。2で割って、2で割ってを繰り返すと。報酬が1億分の1未満BTCなので、掛け算してもゼロBTCしかもらえない。今の足し算をやってみると、21万×50+21万×25+21万×12.5+21万×6.25+21万×3.125+…というのをずっとやっていて、最後に21万×ぎりぎり1億分の1ビットコインを足すと、合計は2099万いくらかになる。2100万というのはおよそでして、正確には2100万をちょっと下回る。その数は実は今の計算で単純に足しただけです。

――基本的なことをお聞きしてしまうのですが、いつこんなことが起きたのでしょうか。

ナカモト氏の論文が公表されたのは2008年の終わり頃で、ビットコインの準備プロジェクトのスタートらしき時期は2009年の1月です。

――ちょうどリーマン・ショック後ですね。

論文が出てから、システムが動き始めるまでが早いですね。論文を書いたナカモト氏と、ビットコインというシステムを構築したチームは、緊密に連携できていたと推量されます。

――実際、論文のアイデアをシステムに作り上げるためには、かなりの作業が必要なわけですね。

論文自体はコンセプトを示したものですので、そこからビットコインシステムを作り上げるには、上級のエンジニアが集まって、時間のかかるプログラミングの作業をやっているはずなので、論文がこの世に発表されてから数カ月でプログラムづくりが終わるというのは、とても緊密に連携がとれているなという印象を受けます。だから、最初のアイデアを書いた正確な時期はわからないですが、論文の公表とほとんど同時に、論文のアイデアを使ってビットコインを作るという作業はスタートしていたのではないかと思います。

最初のビットコインは「自分から自分に送った?」

――最初の話題に戻りますが、最初のビットコインは誰が作ったか、言葉を換えれば誰が採掘したのかわからないということですが、どうやって作ったのでしょうか?

多分、自分から自分に送ったんだと思います。たとえば、自分のアカウントAから自分のアカウントBに送って。これをひたすら繰り返すと。こうして最初に作られたいくつかのブロックは、ジェネシスのブロック(創世記ブロック)と呼ばれています。

ビットコインは大口のユーザーがいると、このアカウントの人は非常に量が多いなとか、追いかけていけばわかってしまうのですが、初期に登場するおそらくサトシ・ナカモトのものだろうといわれているアカウントに100万ビットコインぐらいあるはずなんです。

――そのウォレットに。それをいろんな人に送金したのですか。

今でもあるようです。このアカウントはおよそ100万ビットコイン入ったまま現在に至っています。

――誰が最初に取引きを始めたのでしょうか。

第一の作者は、最初は自分しかいないので、自分から自分へ送って、送ってと。

――二人目以降は誰なんでしょう。

二人目以降もすべて謎なんです。

――何人目ぐらいから公開なんでしょうか。誰かはわからないですが、アカウントはあるわけですね。

何人目になっても非公開です。アカウントの記録は辿っていけます。

――二番目のアカウントとか三番目のアカウントとかは。

確かに、ナカモト氏らしきアカウントから誰かに送られた痕跡があれば、このアカウントが古いなとかはわかるかもしれません。一応、全部記録が残っているので、ナカモト氏から受け取った人が二番目だと思われるけれども、それが誰かはわからない。

――アカウントはあるわけですね。

すべての取引記録が残っているわけですから、アカウントも辿っていくことはできます。

――匿名通貨という名前のとおり、特に最初の一番目から一桁台の人たちは、すべて謎なんですね。こんなに急に広まった背景は何でしょうか。

ビットコインは発行者がいなくて、どの銀行のものでもなくて、どの政府のものでもないと。その無政府的な性格が受け入れられたのです。ある時期には違法薬物などの取引に使われたんです。アメリカのシルクロードという違法薬物のeコマースサイト、その支払いがビットコインしか受け付けないと。これで最初に使われたんです。このシルクロードは幸い摘発されましたが、摘発されたときにビットコインが犯罪の支払いに使われていたことが報道されて、ネガティブな方向で非常に有名になってしまいました。

匿名性ゆえにネガティブな犯罪に使われやすいということで、ここで終わりだろうと思われたわけですが、その後キプロスが破綻して、銀行に預けていた預金の、大口の50%くらいが預金税としてとられることになって、中央銀行も国も政府も信用できないという人が、銀行に預けておくと何が起こるかわからないから、ビットコインに資産を移そうと。これならどこの国のものでもないから、政府に差し押さえられることはないだろうと思ったわけですね。

さらに今度は中国のeコマースサイトのバイドゥが支払いにビットコインを受け付けますと宣言したんです。あのバイドゥがいいということなら、中国政府もいいということなんだと受け止められて、理財商品として投資していいらしいぞと。BTCチャイナという取引所もできて、あっというまに世界一のシェアになったのです。ただ中国では、2013年の12月半ばに、政府が禁止とは言わないけれども、銀行は取引所をやってはいけませんとなりました。すべては、つい最近の話で、じつに展開が早い。

――かなり速いスピードでビットコインを巡るドラマが繰り広げられたわけですね。

シルクロードの摘発は2013年10月です。

――歴史では、通貨を統一してから国家が統一するという流れがあって、ビットコインが普及したら、世界政府になってしまうのではないかということで、国家対ビットコインの争いのように見えるのですが。そういう見方はどうでしょうか?

確かに、その見方はあり得るといえばあり得ます。特にジンバブエのようにハイパーインフレの国とか、キプロスのように財政破綻して預金税をとったような国とか、大きな国でも中国のように人民元でいくら財産を築いても、外国の理財商品には自由に投資できない人たち、仮に富裕層がビットコインに投資するようになると、政府からすれば、金融政策で金融緩和をして経済を刺激したり、金融政策と財政政策の歩調をあわせて、ある時点から金融引き締めして経済を好転させるシナリオでやっているのに、金融緩和で多めに供給した資金が仮想通貨の世界に流れてしまうと、国家には借金だけ、痛みだけが残って、薬の効果が出ないということにもなります。

――今回たくさん取材を受けられていると思うのですが、マウントゴックスの破たんはビットコインのシステムが悪かったわけではないんですよね。その取引所のハッキングといわれているのですが、ビットコインそのものが悪いわけではないんですよね。

元々、この図でご覧になれるように、分散型仮想通貨というのは、支払人、受取人、P2Pの図で現わせます。この図のどこにも、真ん中になる存在がないはずです。最初にビットコインを手に入れるときには、誰かに現金とビットコインを交換してもらわなければいけないので、交換所に行ってお金とビットコインを換えてもらうことが必要ですが、あとは自分のビットコインを直接、相手のアカウントに送るわけですから、取引所と呼ばれるものは必要ではないはずです。なのに、今のビットコインの仕組みというのは、取引所といわれるものが大きなものだけで世界に30か所ぐらいあって、その中でも6か所ぐらい大きなところがあって、そういうところに取引が集中している。あたかも、証券取引所のようなものが世界に6か所ぐらいあって、しかも一部の取引所では、顧客のビットコインも現金もとりあえず預かって、すぐ動かせるようなウォレットに入れて預かっていたわけですから、信託銀行のようなことも一緒にやっていると。

支払人、受取人からなる「P2P」の図

(出典:ビットコイン勉強会・福岡(2)資料(近畿大学産業理工学部・山崎重一郎教授))

(※ http://www.slideshare.net/11ro_yamasaki/bitcoin2 )

――ウォレットを預かっていたわけなんですね。

マウントゴックスの場合は、安全に保管しますというサービスと、いつでも動かせる便利なプラットフォームを提供しますという二つのサービスを行っていたのですが、それが裏目に出たわけですね。保管用の専用アカウントに送金してもらうサービスだったようですが、それが実際にはマウントゴックスの個人アカウントだったようです。

――裏目に出たというのは、安全に保管しますというのが、違ったということですね。

それといつでも取引きできる便利なプラットフォームと言っていたのに、サービスが停止してしまった。

――取引所を介す必要は特にないわけですよね。

投機的な、デイトレードをやる人たちは、世界中の無数の人と結びついて、自分がこれから上がると思っていると、だから今の値段で買いたい、今の値段でこのぐらいの量を売ってくれる相手は、取引所を通じて探す。取引所は、相手が見つかりましたということで手数料をとって、そういう売りと買いを結びつける。しかも大勢の人が参加して、チャートを見ながらデイトレードをやっているので、ホットウォレットといいますが、すぐ動かせるような状態のお財布で預かっていたということです。

――証券口座のようなものですか。

そうですね。

ビットコインの未来とは?

――規制するという話が出てきているのですが、先生の話を聞いていると規制のしようがない気もするのですがいかがでしょう?

一応、規制の議論はアメリカでは二つの議論がありまして、一つはマネーロンダリングを防止するための規制、もう一つは利用者を保護するための規制。私は、利用者を保護する規制は不可能だと思っています。なぜなら、ビットコインの仕組みがどういう仕組みかはビットコインをつくっている人たちにしかわからないので、いくらオープンソフトで公開されていても、たとえば今回のバグをついた攻撃のように、そこまで政府は面倒はみきれないので、利用者保護のルールは今もないけど、これからも無理だろうと思います。

一方で、マネーロンダリング対策のほうは厳しくしようとすればちゃんとルールはできて、アメリカでは既にFinCEN(フィンセン)という、マネーロンダリング対策を司る連邦機関があって、ここのルールが仮想通貨にも及びますよということを2013年3月に決めているんです。マウントゴックスもこの対象になっていました。具体的には、ユーザー登録の際には本人確認をしますよと、また犯罪と関連のありそうな取引を見つけたら報告しますと、そういう場合には詳細な記録もとりますと、この3つが主な義務です。こういった最低限のマネーロン対策がある。

あと付け足すとすれば、一般的なことで、取引所規制というか、最低限システムの監査を受けるとか、公平性ですね、順番どおり取引をやっていることが証明できるように記録をとるとか、一般の証券などの取引所では当たり前のことですが、それをちゃんとやっているかどうかを、ルールを決めて、ちゃんとやっていますねということを国が確認する。そこまではやってあげられると思います。結果的に、完全ではないですが、少なくとも取引所としてちゃんとやっていますねという意味で、最低限の確実性が担保されて、その反射効果として、利用者の安全にも一定程度つながります。

――今後、ビットコインはどうなると思われますか。

本来の論文に書かれていたビットコインというのは、国家の枠を持たずに自由に流通するもので、発想としても優れているというか、どこかの国家に依存しないものを世界のみんなが受け取ることで成立するというのが、とってもインターネット的な出来事で、すごく面白いことだと思うので、このコンセプトはこれからもうまくいくといいなと思います。ただ取引所にお金と情報が集中して、仮想通貨が投機の対象になっているという、その部分は本来の仮想通貨の役目からはやや外れているので、そこは残念だと思います。

――最初におっしゃっていただいたように、目的があってつくられたものですから、これだけ難しいシステムを作り出してやっとここまできたというようなところで、先生は肯定的に見ていますか、それとも否定的に見ていますか?

研究者は二者択一の議論をしないので、条件を設定して場合分けをして考察します。もし、仮想通貨がナカモト論文本来の姿のままでいくのであれば、国家の関与を受けることなく、自律性を貫いていくのがいいと思います。これが理想形です。でも、現状の姿のままでいくのであれば、あまり好ましいことだと思わないけれども、それに見合った国家の関与の在り方を考えるしかないですね。そのどちらに進むかは、ビットコインを使う人たちが選ぶことなのかなと思います。なにごともみんなで決めるのが、仮想通貨の本質ですから。

――ありがとうございました。