生理学研究所(生理研)は3月20日、哺乳類の中でもヒトに近い視覚系をもつ霊長類である「新世界サル(マーモセット)」の網膜から脳の視床に視覚情報を送る新たな神経経路を発見したと発表した。

同成果は、シドニー大学のパーシバル・くみ子 研究員の研究グループならびに、生理研および同機構 研究力強化推進本部の小泉周 特任教授らによるもの。詳細は国神経科学会雑誌「The Journal of Neuroscience」に掲載された。

これまで霊長類では、2つの経路(視床のM層経由型とP層経由型)が目で見た画像をそのまま脳に伝えている、と考えられてきた。今回、研究グループは、マーモセット網膜への遺伝子導入法を開発することで、霊長類の網膜にわずかに存在する神経細胞の可視化に成功したという。

また、同手法および視床の特定の領域に色素を注入する方法を用いて、網膜から視床の特殊な層(K1層)へと情報を伝える、複数の神経細胞のつながりを調べたところ、網膜内のDB6双極細胞が網膜の「狭棘状細胞(ナロー・ソニー神経節細胞)」という神経細胞につながり、狭棘状細胞がK1層へ情報を送っていることが判明したとする。

さらに、K1層には、視覚情報のうち"動き"に反応する細胞が多く存在すること、ならびにK1層の情報が"動き"の情報処理を行うMT野にも直接情報を伝えていることから、今回発見した経路は、"動き"の検出に特化した神経経路であることが示唆されたとする。

今回の成果について小泉特任教授は「これまで単純なカメラのフィルムとして考えられていた霊長類の網膜でも、特殊な情報処理をするための情報処理経路があることが明らかになった」とコメントしており、今回発見された"動き"の検出に関与する神経経路が、目が見えない方の「ブライドサイト(見えていると意識しないのに、ある種の情報が脳には直接送られている)」と呼ばれるような能力に関与していることが考えられるとしている。

緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子導入と免疫染色によって可視化された、狭棘状細胞(緑)と、DB6細胞(赤)。網膜内で、狭棘状細胞がDB6細胞とシナプスをつくり、情報を受け取っていることが明らかとなった。また、脳の視床に色素を注入する方法で、視床(外側膝状体)のK1層からこの狭棘状細胞がつながっていることが明らかとなった