カレーライスと言えば日本における国民食の1つ。家ではお母さんがつくってくれ、給食にだって登場する。飲食店でもカレー専門店が成立するくらい日本で愛されているカレーライスだが、そのルーツは? と聞かれれば、「え…インド?? 」と自信無さげに回答する人が大半ではないだろうか。
「カレー総合研究所」の代表取締役・井上岳久さん。「横濱カレーミュージアム」で責任者兼総括プロデューサーを務めるなど、カレーに関するあらゆるプロデュースを成功させ、日本のカレー研究の第一人者として多方面で活躍中 |
そこで今回は、あらゆるカレーについてのコンサルティングビジネスを展開する「カレー総合研究所」の代表取締役・井上岳久さんにカレーに関するお話を聞いてみた。まずはそのルーツについて。
「カレーの歴史の始まりは、一説では5000年前とも言われるインダス文明が栄えた時代。古来より高温多湿で食の衛生を保つのが難しかったインドの人々は、保存に向いてるスパイスを多く生み出していました。それを混ぜ合わて料理に用いたのがカレーです。その後、18世紀にイギリス人がインド侵略の際に初めてカレーに触れ、カレー粉として加工し本国へと持ち帰り、ヨーロッパ全土へと広がっていったそうです。それがやがて、江戸時代後期から明治時代の文明開化が起きていた日本にも、他の海外の輸入品と一緒に入ってきたわけです」。
日本のカレーライスは肉じゃがの進化系!?
だが、我々のソウルフードである"日本のカレーライス"と、いわゆる本場インドカリーはまったくの別物。いったいカレーはどのような進化を遂げ、日本人の口にマッチする現在の味になったのだろう。
「俗説ですが、明治時代に海軍の連合艦隊司令長官の東郷平八郎が、かつて留学先のイギリスで食べたビーフスチューを料理長に作らせようとしたところ、間違えて生まれたのが肉じゃがだと言われています。その肉じゃががカレー粉を用いてアレンジされ、現在のカレーライスの形になったそうです。そして日本でルーが生み出され、手軽に食べられるようになったことでさらに庶民へと浸透していきました」。
肉じゃがが日本におけるカレーのルーツだったとは驚きだ。ところで、よく「一晩寝かせたカレーはおいしい」なんて言うが、それはどうしてなのだろうか。そんな素朴な疑問も井上さんにぶつけてみた。
「カレーはできあがってから時間が経つほど、スパイスが飛んで旨味が増します。原子構造的に角ばっていた油滴の角が溶け、味の成分と油がなじみやすくもなります。また、ジャガイモなどの具材が溶け出して濃厚になる。こうした変化によって、一般的に言われる"まろやかさ"や"コク"のある状態になります。インド人はカレーを寝かせることはありませんが、日本人はこの旨味を好むため、一晩寝かせたカレーをよりおいしいと感じる人が多いのでしょう」。
一晩寝かせたあの味を簡単につくりたい!
井上さんにお話を聞いて、一晩寝かせたカレーがおいしい理由がわかった。でも、つくってその日のうちに食べたいことってよくあるじゃないか。普通は、「明日カレーが食べたいから今日つくろう」ってならないはずだ。そこで記者はふと思いついた。ひと昔前、「一晩寝かせたあの旨さ」のコピーで有名になった江崎グリコ「熟カレー」の存在を!
今販売されているのは、熟カレーの後継商品である「2段熟カレー」。香りをいかすために短時間煮込んでつくったルーと、じっくり煮込んでコクを高めたルーといった2つのルーを重ねて"2段"に仕上げている。今回はこれを食べてみることにした。「甘口」「中辛」「辛口」というラインナップの中から中辛をチョイス。具材は牛肉や玉ネギ、人参、ジャガイモといったオーソドックスな組み合わせだ。できあがったカレーを一口。
おぉ! 玉ネギのまろやかで奥深いコクとスパイスの芳醇な香り!! 確かに一晩寝かせたようなコクがありながら、香りもしっかり。ルーを入れてからは軽く煮込んだだけだというのに、長時間煮込んだようなコクを出しつつ、肝心のスパイシーな香りは飛ばずにしっかりと感じられる。昔食べた熟カレーよりおいしさが増しているではないか!
ちなみに、今年は「熟カレー」の発売から19周年="じゅく(熟)"周年なんだとか。2月にはコクをさらにアップし、リニューアルしている。熟カレーから2段熟カレー、そして今年さらにリニューアルといった一連の流れは、コクと香りが両立できるおいしさを追求してきた進化の道筋なのだろう。日本のカレーライス文化も、これからどんどん独自の進化を遂げていくのではないだろうか。将来どんなカレーライスが味わえるのか、楽しみである。
(文・A4studio武松佑季)