「日本社会への希望」は相対的に増加

東京大学社会科学研究所の石田浩教授らの研究グループはこのほど、2007年から毎年実施している「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の、2013年調査結果をもとにした分析結果を公表した。

同調査は、同一人に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を用いている点が他調査とは異なり、同じ個人を追跡することにより、個人の行動や意識の変化を跡付けることができることが特徴となっている。

「日本社会の希望」増加しても、「自分の仕事や生活」へは希望がもてない?

「日本の社会には希望がない」と答えた人の比率は、2012年まではおおむね50%を超える高い水準にあったのに対し、2013年には前年の53%から41%へと大きく減少している。確かに「希望がある」と答える人の比率は依然17%と低い水準にあるものの、それでも以前に比べれば「日本社会への希望」が相対的に増加しているといえる。

しかし、「将来の自分の仕事や生活に希望がありますか」という質問に対し、個人の仕事や生活に「希望がある」とする比率は2013年には2012年の39%から35%へと4ポイント低下。同様に「希望がない」とする比率も前年に比べて約2ポイント増加している。

個人の仕事や生活に「希望がある」とする比率は2013年には2012年の39%から35%へ

長時間労働者の多くが、希望に反して長時間働いている

正社員・正職員について、月当たり労働時間(「1日あたりの労働(残業含む)時間」×「月あたりの労働日数」)が減少している傾向は見られず、2009年から2013年の5年間ほぼ横ばいであることがわかった。正社員・正職員に占める労働時間が週60時間を越える長時間労働者(月の労働時間が240時間を越えた者)の割合は5年の間ほとんど変化がなく、男性の約20%、女性の約8%が長時間労働をしている。

長時間労働者の割合は5年の間ほとんど変化がない

長時間労働者は、仕事が好きであり自発的に長時間労働をしている(いわゆる仕事中毒)との見方もある。この見解を確かめるべく、2009年から2013年の5年間継続して長時間労働をしている正社員・正職員について、労働時間の希望推移を見たところ、長時間労働者の約8割が労働時間を「短くしたい」と継続的に希望している。

長時間労働者の約8割が労働時間を「短くしたい」と希望

これに対し、それ以外の労働者を見てみると、「そのままでよい」と回答する者が半数を超えている。継続長時間労働者のほとんどが、自らの労働時間希望にかかわらず長時間労働をしているという実態が明らかとなった。

長時間労働を抑制し、労働者の健康を確保するとともにワーク・ライフ・バランスを実現することを目的とした改正労働基準法が2010年4月に施行された。この改正により、月60時間を越える時間外労働に対して、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金を支払うことになった。ただし、中小企業においては適用が猶予されている。

改正前に長時間労働をしていた者とそれ以外の者の平均労働時間を、改正が適用される企業と、適用されない中小企業別に見た。改正の公布は2008年12月であるため、公布前の調査時点である2008年1月に長時間労働(月240時間以上)をしていたものを、改正前長時間労働者と定義した。適用企業で働く改正前長時間労働者について、施行前後で労働時間の変化は、確認されなかった。今後他のデータを用いた検証が必要であるが、少なくとも同データでは、改正の効果はなかったといえる。

改正労働基準法施行の効果は認められない