皆さんはゴールデンラズベリー賞をご存知だろうか。世の中にはアカデミー賞やゴールデングローブ賞といった数多くの映画賞が存在するが、そうした中でもひときわ異彩を放っているのが、このゴールデンラズベリー賞である。
というのも、普通なら映画賞はその年の優れた作品に対して贈られるものだが、ゴールデンラズベリー賞は「その年の"最低"の映画」に贈られるという大変不名誉な賞なのだ。……しかも、授賞式はアカデミー賞の前夜ときたもんだ。いやはや、アメリカらしいといえばらしいユーモアセンスである。
もっとも、この賞は単につまらない映画というよりは、「ある意味おもしろいんだけど個性的すぎる作品」や「前評判が高すぎてがっかり感が強かった映画」などが選ばれることも多い。むしろ、選ばれたことで注目を集め、評価されることさえある。よって、映画ファンにとっては、アカデミー賞と同様に見逃せない賞でもあるのだ。
そんなゴールデンラズベリー賞の季節が今年もやってきた。いったいどんな作品が受賞するのか今から楽しみで仕方ないが、その前に前回のゴールデンラズベリー賞のおさらいをしておこう。ちょうど、前回受賞した2作品「スノーホワイト」と「バトルシップ」が、WOWOWで3月2日深夜に放送される。それぞれの見どころを紹介するので、ぜひ参考にしてほしい。
もの◯け姫オマージュ?な「スノーホワイト」
「スノーホワイト」 (c) 2012 Universal Pictures. All Rights Reserved. |
第33回のゴールデンラズベリー賞で最低主演女優賞を受賞したクリステン・スチュワートが出演している作品。作品賞こそ逃したものの、ツッコミどころ満載の展開はゴールデンラズベリー賞にふさわしい。といっても誤解しないでいただきたいのは、この映画、それをわかって見るとかなり面白いということだ。
物語のベースになっているのは、誰もが知るグリム童話「白雪姫」だ。日本でもおなじみの名作童話だが、それを本作では大胆にアレンジしている。……"大胆にアレンジ"するのはいいのだけど、本作の場合はそれがちょっと大胆すぎたかな、という印象だ。
何しろ、原作のほのぼの感はゼロ! 剣と魔法、血と戦いに彩られたファンタジーになっているのである。えっ、どういうこと!?
主人公はクリステン・スチュワート演じるスノーホワイト。言わずと知れた白雪姫である。国中から愛される姫君だったスノーホワイトだが、父王が魔女ラヴェンナを妃として迎えたことから運命は一変する。ラヴェンナは王を殺害して国を奪い、スノーホワイトを塔に幽閉したのだ。やがて成長したスノーホワイトは、ラヴェンナに殺される寸前で脱出。黒い森へと逃れるのだった――。
「本当は怖いグリム童話」というシリーズがあるが、「もし本当に白雪姫の物語があったなら、こうだったんじゃないか」と思えるような内容だ。世界観はディズニーというよりはロード・オブ・ザ・リングのような中世ファンタジー世界で、魔法の鏡や毒りんご、7人の小人といった原作ならではの要素もしっかりと登場する(7人の小人は全員単なる小さいオッサンだけど……)。原作の重要なシーンや小道具がどんなアレンジで登場するのかを予想しながら見るのも、本作の楽しみ方の一つである。
とはいえ、原作以外のオリジナル要素も満載だ。
たとえばスノーホワイトが逃げ込んだ森で出会う白い鹿は、どう見ても「も◯のけ姫」のシシ神様である。なんかちょっとコダマっぽい精霊みたいなのも出てくるし、どう考えても意識しているとしか思えない。しかもこのシーン、映画全体から考えると別にいらないのである。「ああ、監督が『もの◯け姫』が好きで、これをやりたかったんだろうな」とニヤニヤできる場面である。
とまぁこんなふうに様々な楽しみ方ができる本作だが、なぜか主演のクリステン・スチュワートがゴールデンラズベリー賞を受賞してしまっている。
これ、クリステン・スチュワートが悪いというのではなく、悪の女王様役のシャーリズ・セロンがすごすぎたのだ。何しろ彼女は元モデルという美貌の持ち主で、さらにアカデミー賞やゴールデングローブ賞も受賞した経験を持つ超実力派女優! 本作でもその演技力と存在感は圧倒的で、悪の女王ラヴェンナとして神々しいまでの演技を見せてくれている。
「白雪姫」は穿った見方をするなら、白雪姫と悪の女王が比較され、対立する物語。その意味では本作も、クリステン・スチュワートとシャーリズ・セロンの女優対決の映画なのだ。若手の有望株クリステン・スチュワートではあるが、さすがに比較されてしまうと相手が悪いと言わざるを得ない。本作がゴールデンラズベリー賞を受賞してしまったのは、そのあたりにも理由があるのかも?