セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓氏がビジネスの最前線で活躍する人たちを招いて対談する「中野晴啓世界一周の旅」。ワールドインベスターズTVで動画を閲覧することができる。今回は、第1回第2回第3回に引き続き、グローバル・インベストメント・アジア副社長でエマージング・マーケッツ・ストラテジストの蓮沼嗣也氏と対談した「ブラジル経済編」の第4回を紹介したい。

セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓氏(左)とグローバル・インベストメント・アジア副社長でエマージング・マーケッツ・ストラテジストの蓮沼嗣也氏(右)

潜在的にはものすごい力を秘めた国、若い人が多いのが特長

中野 : 皆さんこんにちは。中野晴啓の世界一周の旅。ブラジルシリーズの4回目、ラストです。今日も素晴らしい話を期待したいと思います。今日もグローバル・インベストメント・アジア副社長でエマージング・マーケッツ・ストラテジストの蓮沼嗣也さんです。

蓮沼 : よろしくお願いします。

中野 : ブラジルは我々にとって遠くて近い国。個人も含めたくさんのお金が投資されています。目先では、実体経済が悪く踊り場にあって、株式市場も通貨も売られている。ただこういうことで、ブラジルは終わったというようなことを言ってはいけないと思います。

実際に、ブラジルに長い時間コミットしてきた蓮沼さんが描いていらっしゃる、長期投資先としてのブラジルの将来、ポテンシャリティ、オポチュニティ、期待、夢のような、そんなものも含めて、現場の立場から語っていただきたいと思います。どうでしょう。ブラジルの5年先、10年先、あるいは20年先まで見据えて語っていただきたいと思います。

蓮沼 : 5年、10年、20年でみれば、世界の新興国の中でも、潜在的にはものすごい力を秘めた国だと思います。その背景の一つは資源があること。農業国であること、そして生産年齢が若いこと。今回、何度もお話したと思いますが、アジアにも若い人はたくさんいますが、中南米、特にブラジルは若い人が多いです。

中野 : そこは中国と大きく違いますね。

蓮沼 : 違いますね。中国には「一人っ子政策」がありましたが、ブラジルの場合は、毎年2%の人口増です。ただ、貧富の差は激しい。でも資本主義ですから、だれでもいい生活をしたいという思いは持っていますよね。その意味では、ブラジルという国は今後も伸びていく。サンパウロ、リオデジャネイロの街を見渡せば、若い人があふれています。

中野 : 大事な話です。俗に人口ボーナスという、生産年齢の人口がどんどん増えている。これはブラジルはまだ続いています。中国とは大きな違いで、中長期的に経済を大きくする最大の要因です。是非覚えておいてください。

中長期に見れば世界のトップ5に入る国、日本の自動車メーカーも進出

蓮沼 : そういうことを考えると、内需がものすごく盛り上がっている。今年、来年は厳しい局面があるかもしれませんが、中野さんがおっしゃるように、3年、5年、10年、20年のスパンで見れば、一昨年、昨年にブラジルに行っていろいろな人の話を聞いたところ、現在GDPは世界第7位ですが、中長期に見れば世界のトップ5に入る、要するにG7、G10、先進国入りをする。

蓮沼氏は、ブラジルの未来について、「3年、5年、10年、20年のスパンで見れば、世界のトップ5に入る」と語った

貧富の格差はそのままあると思いますが、潜在成長率はどんどん伸びていく、GDPが2兆ドルを超えて3兆ドルを目指していく。こういう国ですから、必ずや皆さんの期待に応えられるような国になると思います。もう一つ大きなことでいうと、日本の企業がどれだけブラジルに出ていますか。

中野 : 意外と僕ら知らなかったりしますね。

蓮沼 : これまでも話しましたが、日本の商社さん、重工業さん、白物家電さん、自動車メーカーさん、トヨタさんもホンダさんも、一昨年、昨年ですよ、それまではノックダウンでつくっていました。それまでは強かったのは、フィアットであり、ドイツのフォルクスワーゲン、そのマーケットにいよいよトヨタやホンダが入ってきました。

中野 : 現地生産ですね。

蓮沼 : 現地生産をいよいよ開始すると。自社のラインをつくる。一昨年はトヨタ、昨年は8月にホンダさんが出ると新聞に出ていましたが、要するに、高級車ではなくコンパクトカーです。当然フォルクスワーゲンもフィアットもそうです。この分野にうって出なければいけない、大きな市場の一つであると。アジアももちろんそうだと思いますが、やはり中南米、ブラジル、ここに自動車メーカーも力点を置いている。当然、部品メーカーも来ますね。

中野 : 裾野は広いですからね。そうすると、まさにブラジルに日本の自動車メーカーが長期投資として、動き始めたということですね。実業というのは立派な長期投資です。農業はどうですか。

日本の商社は"逃げない"、鉄道網や港などにも投資

蓮沼 : 農業でも日本の商社さん、10年、20年かけてやってきています。逃げません。大手のトップ5の商社さんは、大豆、コーヒー豆、もちろん牛肉、10年、20年。逃げずにやってきています。かつ、鉱物資源にも、日本の商社さんが何千億単位で投資しています。これも10年、20年のスパンで見ています。ですから、目先の勝ち負けではありません。今彼らが何に力を入れているかというと、5年、10年、山から港へ運ぶロジスティックス、鉄道網などに投資しています。

中野 : 鉄道を敷いているのですか、商社が。

蓮沼 : はい。貨車をリースで持ってきたり、交通システムをつくったり、港を整備したり。港まで持っています、日本の商社さんは。

中野 : それはやっぱり生半可ではできない、命がけですね。

パナマ運河の拡張で、赤道を通ってアジアへ

蓮沼 : それらを補完するもう一つの要因はパナマ運河の拡張です。パナマ運河が就航して100年、5000億円の投資がされています。そうすると、今までパナマサイズという一定のサイズしか通れなかったのが、その2倍、3倍の大きな船が通れるようになります。これは、航路の革命であり、何が起こるか。農業も鉄鋼業も、要するに物流が大きく変わります。今まで南を通ってアジアに行っていたものが、まさしく赤道を通って、パナマ運河を通って。

中野 : ストレートに入ってこれるということですね。

蓮沼 : そうです。コストも下がる。これはもしかすると物流大革命が起こるかもしれない。これはブラジルが持っている潜在的パワーの一つです。

中野 : ものすごく面白い話ですね。今聞いただけでもブラジルは潜在的パワーを持っていると思います。蓮沼さんのお話は、すべて長期投資のビジネスがどんどん積み上がって、目先のマーケットとは違う動きが、実体経済の中にあるというすごくいい例だと思います。

こういうことを感じながら、投資をしていくのが今後の長期投資ですね。僕らはすぐ目先の通貨とか、景気が悪いとかいってすぐ売ってしまったりしますが、先ほどの絶対「逃げない」という、これは長期投資の素晴らしいところだと思います。今日は、"長期投資魂"も含めてお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。