セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓氏がビジネスの最前線で活躍する人たちを招いて対談する「中野晴啓世界一周の旅」。ワールドインベスターズTVで動画を閲覧することができる。今回は、前々回、前回に引き続き、グローバル・インベストメント・アジア副社長でエマージング・マーケッツ・ストラテジストの蓮沼嗣也氏と対談した「ブラジル経済編」の第3回を紹介したい。
多くの人にとって労働条件が劣悪、日本とは比較にならない格差
中野 : 皆さんこんにちは。中野晴啓の世界一周の旅。今日はブラジルシリーズの3回目です。今日もゲストでお迎えしているのは、グローバル・インベストメント・アジア副社長でエマージング・マーケッツ・ストラテジストの蓮沼嗣也さんです。
蓮沼 : こんにちは。
中野 : ブラジルの話を2回にわたって深堀りしていただき、今回はどんな話を伺おうかと思ったのですが、やっぱり今ブラジルといえば、多くの人が思い浮かべるのは今年のワールドカップ、そして2016年のリオのオリンピックだと思います。
ですが、昨年テレビでも報道されました、ワールドカップだ、オリンピックだということに対して、国民がやめろと言っている、そういう話もあります。今日は蓮沼さんにお土産を持ってきていただきました。見たことありますね。ブラジルのナショナルチームの練習着ですね。これはどうしたのですか。
蓮沼 : 前職がスポンサーをやっていましたので、ノベルティを持ってきました。カナリアカラーですね。ワールドカップの前哨戦、コンフェデでも優勝しました。まさしくこのユニフォームを着て戦っている姿、強いですね。
中野 : なぜ、これからイベントがあることに対して、地元の人がやめろと言っているのですか。
蓮沼 : 大事な話だと思います。というのは、実はブラジルというのは前回も話しましたが、貧富の差が激しい。従って、お祭りであるワールドカップやオリンピックで外国の人たちにたくさん来てもらって外貨を落としてもらうことが期待されます。
中野 : いいことですね。
蓮沼 : こういうことは非常にいいことですが、その前に中央政府はやることがあるのではないかと。暴動の一つは、財務大臣のマンテガさんを解任してくれとか、労働条件をよくしてくれ、社会保険を整備してくれ、こちらの要求の方が強いんですね。
中野 : 多くの人にとって労働条件が劣悪で、賃金が不当に安いとか。日本でも格差、格差と言われていますが、そういうレベルではないということですね。
所得で「A」「B」「C」「D」「E」とランク付け
蓮沼 : 実はブラジルは、皆さんになじみがないかもしれないですが、悪い国かもしれない。治安の悪さ、所得の格差、この2つが大きい。そして移民の国であるということ。これによってどういうことが起きているかというと、非常に格差が激しいので、人間にランク付けがあるんです。「A」「B」「C」「D」「E」。これは所得で分かれています。
中野 : 僕は「B」とか、わかるんですか。
蓮沼 : わかります。自分の年収によりますから。
中野 : それはお互いがわかるんですか。蓮沼さんは「A」ですが、僕は「B」ですとか。
蓮沼 : それはさすがにわからないです。ですが、住んでいるところを見れば一目瞭然です。
中野 : そんなに違うものですか。
蓮沼 : サンパウロ、リオデジャネイロでも郊外に行けば一目瞭然です。貧しい人たちのトタン屋根の家が、崖、岩の上に建っています。
中野 : 平らなところには家は建てられないのですか。
蓮沼 : 建てられないのです。
中野 : それは何でですか。
蓮沼 : お金がないんです。貧しいんです。
中野 : そう言われてもまだイメージがつきません。
蓮沼 : 実際に、月収はドルで70ドル。
中野 : 7000円。
蓮沼 : その半分くらいの人が何と数千万人もいます。2億人弱のうち、5000万、6000万人。
中野 : 電気代などは払えないじゃないですか。
蓮沼 : そうです。電気、ガス、水道などのインフラがないところに住んでいます。
中野 : つながっていないのですか。
蓮沼 : つながっていません。
中野 : どうやって生活しているのですか。
蓮沼 : 川の水、ロウソク、あとは盗難です。先ほど、治安が悪いと申しましたが、実は私の同僚もやられています。
大きな大人を相手に子どもが強盗
中野 : 何をやられたのですか。
蓮沼 : お恥ずかしいお話かもしれませんが、海外のお客さんをサンパウロ、リオデジャネイロに連れていきます。夜、そういう街に行きます。皆さんテレビでは見ているかもしれませんが、一つはホールドアップ、あとは刃物、小さな子どもがやってきます。夜の暗い道で。
中野 : 子どもがやるんですか。
蓮沼 : はい、相手は大きな大人です。それで、私の同僚はパンツ一丁になりました。
中野 : 全部盗られたんですね。
蓮沼 : 命はとられなかったからよかったと。
中野 : 服も盗られたんですね。
蓮沼 : はい、服も、バッグも、財布も、パスポートも。パンツ1枚で領事館に駆け込むという。
中野 : それは珍しいことではないのですね。
蓮沼 : 全く珍しくありません。やはりそれだけ貧富の差が激しい国なので、大きな都市に来れば来るほど、周りはスラム化しています。従って、夜になればそういう人たちが出てきます。
中野 : 夜は歩いてはいけないんですね。
蓮沼 : そうです。
中野 : 本当にそうなんですね。
蓮沼 : リオは特にそういうふうに言われています。私はサンパウロに長くいまして、リオにもいましたが、リオではホテルから出るなと言われていました。出るときには、半パン、半袖、ジャケットを着たりしていたら狙われやすい。鞄を持ったらなおさらです。そういう貧しさがみられる国です。
中国と同様の「賄賂社会」
中野 : 中国は、労働分配率が低く、袖の下といわれる、いわゆるピンハネが激しいと言われていますが、ブラジルも同じですか。
蓮沼 : 同じです。今回公共投資をやればやるほど、必ず、中間でそういういろんな人たちが出てきますから。
中野 : 賄賂社会なんですね。
蓮沼 : これは格差を作った大きな一つの原因です。でも経済規模は拡大しているわけですから、成長していく過程の一つの流れといえば、流れなのかもしれません。
中野 : 賄賂をもらう側はものすごい格好しているのですか。
蓮沼 : そういう人たちも見てきました。
中野 : 日本のお金持ちよりはるかに豪華だったり。
蓮沼 : 家はものすごく大きかったりします。ブラジルは以前は植民地でしたから、ポルトガル、イタリア、ドイツ人などは大きなところに住んでいます。低賃金の労働力を使って農業でも工業でも大きくしてきた、これは事実だと思います。
リオのカーニバル、治安上は危険
中野 : 素敵な話とは聞こえなくなってしまいますね。素敵といえば、リオのカーニバルは見てみたいのですが、行ってもいいんですか。
蓮沼 : これも私の友人のブラジル人からいえば、基本的に行かない方がいいのではないかと。やはり危ないと。
中野 : 見てみたいな。
蓮沼 : 私も見てみたい。
中野 : 蓮沼さんも見ていないのですか。
蓮沼 : 行きたかったのですが、行くなと言われました。なぜなら、ポルトガル語がしゃべれないから。
中野 : そうするとズドンとされるという。
蓮沼 : そういうリスクがあるということですね。
中野 : ブラジルは遠いですが、行ってみたいと思います。行くんだったら何を心がけたらいいか一言お願いします。
蓮沼 : 自分のことは自分で守らなければいけないので、夜歩くのであれば小銭は分散して。もしやられたら、手を挙げて「ボルサ、ボルサ」と叫んでください。お札のことです。そうするとポケットに手を突っ込まれて、持っていって逃げていきます。
中野 : いなくなってくれるんですね。皆さん、よろしいですか。これを守って、ワールドカップ、オリンピック、多くの方が行きたいと思っているでしょうから、是非、このアドバイスを守っていきましょう。ありがとうございました。