――スタッフという点では、これまでよりもさらに人数が増えた感じですね

吉浦監督「まだビッグチームというほどではなくて、前よりももう少し増やしたという感じです。キャラクターデザイン・作画監督を又賀さんにお願いしたのもそうですが、今回は美術監督の存在も大きいかもしれません。前作は美術設定がいなかったんですけど、今回は美術監督として金子(雄司)さんに参加してもらい、一緒になって世界観を共作していった感じです」

――美術監督を起用することで大きく変わってくるところはありましたか?

吉浦監督「特に今回はデカいんじゃないかと思います。最初は完全外注で、美術会社にお願いしようと言われたんですけど、それだと作風的に難しいと思ったので、自分で適任者を必死になって探しました。それで何とか金子さんを見つけて、飲み会でくどきました(笑)。金子さんは僕と同い年なんですけど、イマドキ珍しくアナログで描く方なんですよ。紙に絵の具で。しかも建築の知識もあり、相性もすごく良かった」

――相性というのは重要ですよね

吉浦監督「普通は美術室というものを別に作るんですけど、今回は僕の座っている隣に作画監督がいて、後ろに美術監督がいるみたいな感じの、すぐに相談ができる環境で制作を行ったので、すごくフットワークが軽かったです。金子さんはすごく手が早いので、僕のアイデアをすぐ絵にしてくれる。本当に、彼なしではできなかったといってもよいぐらいです」

――キャラクターのデザインについてはいかがでしたか?

吉浦監督「いろいろと要望を出しつつ、茶山氏と原案を作っていったのですが、地上世界は比較的スムーズで、悪役のイザムラは法衣のようでいて実はスーツだとか、治安警察は全部ナポレオンコートにするとか、けっこううまくハマっていったんですけど、地底人がちょっと難しくて……」

――今回、コスチュームデザインに杏仁豆腐さんがクレジットされていますよね

吉浦監督「地底人の衣装については、茶山氏と一緒にデザインしつつも次第に煮詰まっていって……。それで、いったん全然違う人にお願いしてみようと思ったところ、制作デスクの稲垣さんが杏仁豆腐さんを紹介してくれたので、お願いしてみることにしました。杏仁豆腐さんは女性で、『THE IDOLM@STER』なんかで有名な方ですけど、意外とサブカル系のデザインが好きな方だと聞いたので、ちょっと面白そうだなと思って。それでお願いしたところ、コットン生地のかわいいモコモコのデザインを描いてくれて……あ、これはいいなと」

――メインの2人のキャラクターデザインについてはいかがですか?

吉浦監督「とにかく今回の作品は動くアニメにしたかったんですよ。王道的な活動漫画映画。懐かしい雰囲気も出したかったので、流行のシャープなデザインじゃなくてもいいから、ライトなもの、いろいろな世代に観てもらえるようなデザインにしたかった。それこそ小学生から、自分の親まで観られるような。『イヴの時間』は結果的に、高校生ぐらいからSF好きの高齢の方までがターゲットになった感じですが、今回は小学生まで下げたかった。それと、普段あまりアニメを観ない層も抵抗なく入ってこられる感じ。『イヴの時間』は何だかんだいっても、難しいSF作品みたいに思われたところがあったんですよ。自分ではそんなことはないと思っているんですけど、今回はより自覚的に、柔らかくして、年齢層を拡げています。とはいえ、『イヴの時間』の茶山氏のデザインもちゃんと受け継がれていますから、けっこういい感じなんじゃないかと思っています」

――作画的にこれまでの作品と変えたところはありますか?

吉浦監督「CGであらかじめ設計したものに描いてもらうという点は一緒なんですけど、僕の意図というより、作画監督の能力で、大きく変わっているところはありますね。非常に躍動感や動きがメインの作品にはなったんじゃないかと思います。絵コンテ自体は自分で描いているんですけど、そこから数割増しで演技を盛ってくれているので、画面では自分の意図したものよりもさらに良い演技に仕上がっていると思います」

――雰囲気的なところも変わっているような気がします

吉浦監督「そこは撮影処理の違いもあるかもしれません。今回は王道活動漫画映画にしようと思ったので、くどい撮影処理はやめました。本当はかなり細かいこともやってはいるんですけど、それをあまり前面には出さないようにしました。今回、作画と背景美術がとても良かったので、余計なことをする必要がなかったというのもあります。より幅広い層に観てもらえるものにしたかったので、これまで以上に素材の良さを活かした作りになっています」