ハリウッドで今、最も注目されているフィルムメーカーのクリストファー・ノーランとザック・スナイダー。そんな彼らがタッグを組んで映像化に挑んだのが、アメリカのスーパーヒーローの元祖ともいうべきスーパーマンの物語だ。往年のスーパーヒーロー"スーパーマン"をC・ノーランとZ・スナイダーはどう解釈し、どう映像化したのか。映画『マン・オブ・スティール』についてZ・スナイダーに話を聞いた。

ザック・スナイダー
ジョージ・A・ロメロ監督の映画『ゾンビ』(1978)をリメイクした『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)で映画監督デビュー。その後、フランク・ミラーのグラフィックノベルを映画化した『300<スリーハンドレッド>』(2007)や『ウォッチメン』(2009)など、リメイク作品や原作のある作品を多く手掛ける。最新作は、クリストファー・ノーランとともに新たな"スーパーマン"を描いた映画『マン・オブ・スティール』。

――まず、どうしてスーパーマンの映画を監督することに興味を持ったのか、教えて下さい。

僕はスーパーマンというキャラクターのファンではあったが、スーパーマンの映画を作ることに、とくに情熱はなかった。どうすればクールな映画にできるのか、わからなかったからね。映画『ウォッチメン』を作った後だけに、スーパーヒーロー映画を作るのは難しかったんだよ。全部のルールを完璧に知った上で、それを打ち破ってみせるのがスーパーヒーロー映画の作り方なんだと考えてはいたんだけどね。だから、クリス(クリストファー・ノーラン)と、この作品をどんな映画にするかについて、話し合いをもった。そのときにまず最初に僕は「スーパーマンは難しいですよね」と言ったんだ。そしたら彼は映画や、シーンについていろいろ語ってくれて、僕は、「それはクールだ。興味深い視点だ」と思うようになったのさ。

――具体的にはどのような会話がクリストファー・ノーランとの間にあったのでしょうか。

僕が、この作品をどのようなアプローチで制作したいかを色々聞いてくれて、キャラクターやビジュアルについてかなり熱く語ったね。クリスは僕のアイディアを凄くサポートしてくれたよ。そのときに「君の作る映画が僕は観たいんだ」とクリスに言われたんだ。だから、クリスは僕のビジョンを育むために大いに力を貸してくれたんだ。

――監督は、スーパーマンの物語のどういった点に一番面白みを感じますか?

すばらしい養子縁組の話だと思っているんだ。家族というものについての、素敵な話。自分を愛してくれる家族を見つける話。愛、それが核にある。スーパーマンは家族を探している。いわゆる自分探しの物語でもあるわけなんだ。そして彼はケント一家が最高のファミリーだということに気づく。そこに僕は感動するし、この物語の美しさを見る。バトルシーンや、かっこいいビジュアルエフェクト、クレイジーな要素ももちろんあるけれど、そのテーマから離れないことが大事だと思っている。

――今回の作品では、これまでのスーパーマン作品とは一線を画すべく、コスチュームやタイトルなどを大きく変えていますね。

スーパーマンの神話という意味では、すでに出来上がっているんだ。だから、そのなかからどこに光を当て、どこを掘り下げるのか。それに(スーパーマンの話のなかで)自分の好きなところはどこなのかということを考えた。その結果、衣装や言語を含めたクリプトン文化について、かなり細かく作り込むことにした。今まで、"こうじゃないか"と想像されていた部分を実際に掘り下げて、理解しようとするなかで"本当はこういうことなんじゃないか"といった考えが生まれ、これまでのものから変更していったんだ。その作業はやっててすごく楽しかったよ。

幼い頃から超人的な能力を秘めていた少年クラーク・ケント。育ての親との約束でその力を封印し、孤独な少年時代を過ごした彼は成長し、ついに自分の真実を知ることとなる。しかしその時、クリプトン星唯一の生き残りであるゾット将軍と反乱軍が、クラークが地球にいることを突き止めた。それは、人類存亡を賭けた闘いが始まることを意味していた……

――監督独自の解釈で描いたシーンを教えて下さい。

例えば「"Sシールド"はクリプトン語で"希望を意味する形"であり、英語のエスじゃないんだよ」という部分であったり、「(スーパーマンの着ている)スーツもクリプトンの文化では、みんなが普通に身につけているものであって、特に目立つようなものではないんだよ。地球にいるから目立ってしまうだけなんだよ」という部分ですね。こういった設定は今までなかったわけでないんですが、掘り下げられていない面だったんだ。彼の新しいスーツについても、これまでは(地球での母親である)マーサ・ケントが赤ん坊のカル・エルを見つけたときに包まれていたブランケットから作ったものということになっているんだけど、そのあたりの物語を話の整合性を考えつつ、完璧なひとつの世界観を作るなかで、掘り下げていったんだ。

――スーパーマンはアメリカの象徴のような作品であるにも関わらず、スーパーマン役にはイギリス人のヘンリー・カビルを起用しています。これは作品内で、"スーパーマンはアメリカ人でなく、あくまで異星人である"という部分とかけている部分もあるのでしょうか。

実は、(スーパーマン役がアメリカ人俳優でなかったのは)意図していたわけではなく、たまたまなんだよ。最高のスーパーマンを求めていたらヘンリーに出会い、彼がたまたま英国人だったというだけ。ただ、彼のクラーク・ケントの演じ方は、オーディションで見たほかのアメリカ人俳優にはないものがあったのは確かだよ。スーパーマンがアメリカのアイコンであるからこそ、何か彼のもつ客観的なアプローチというのが良かったんじゃないかと。

つまり、アメリカで生まれ育った人だとアメリカ的キャラクターを演じるときに、自分の育った環境が影響してきてしまうんだ。その点、ヘンリーは自分がイギリス人であるからこそ、アメリカのアイコンを演じようとする、その真っさらなところがかえって良かったんだよ。

――最後に、この作品の続編について教えて下さい。

難しい質問だなぁ(笑)。次の作品ではバットマンが登場するわけだけど、バットマンが登場することでスーパーマンのことがより明らかになる。そういう登場の仕方をバットマンにはしてもらうことにしているよ。それをどう映像化するのか。それを考えているのが、とても楽しいんだ。

――これは余談なんですが、監督はポリシーとして、撮影セットに炭酸飲料を置かないそうですね。

ダイエットコークはちょっと置いているけど、最低限にとどめているね。クルーの健康を気にかけているんだ。

映画『マン・オブ・スティール』は8月30日より、新宿ピカデリーほかにて全国公開中。

TM & (c) 2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED. TM & (c) DC COMICS