物語はその後も原作映画に非常に忠実に進んでいく。鈴木プロデューサーが舞台化発表の記者会見で「映画と舞台は違うから、大胆な解釈で大胆に変更を加えた方が面白い。破綻をきたしてもいい」ということを言っていたが、その言葉とは逆の展開だ。とはいえ、再現できなかった結果として中途半端にオリジナルな改変を入れられるよりは、正々堂々と完璧な再現にチャレンジされる方が見ている側としても楽しい。
気になっていた各場面の転換だが、セット自体をチェンジするのではなく、照明の色や明るさ、そして背景に投影された映像でうまく表現されていた。例えばエボシ御前が男衆を率いて森へ入っていく場面では、暗めでニュートラルな照明に豪雨の映像を投影、またタタラ場のシーンは、明るめかつ暖かい色味の照明に「ござ」を壁代わりに立てて使うことで、和やかな空気感を醸し出すことに成功していた。
物語はさらに進む。"もののけ姫"のサンとの出会い、タタラ場での人々との交流、そしてモロや乙事主、シシ神の登場――。
もっとも気になっていたのは動物たちや山の神々をどう表現するのかということだが、雰囲気でごまかすのではなく、しっかりとパペットで作りこんできたのには驚いた。しかも写真だとわかりにくいが、動きもかなりリアルだ。相当に原作を研究してきたことがわかる。
終わってみれば、見る前のあの心配は何だったのかと思うほどの再現度の高い舞台だった。今回の『Princess MONONOKE ~もののけ姫~』が、舞台という制限への挑戦だったのだとすれば、「Whole Hog Theatre」は見事に打ち勝ったのだといえるだろう。
本公演は終了しているが、千秋楽の模様はニコニコ生放送で7月6日まで試聴することができる(ネットチケットの購入は6月6日まで)。イギリスの若手劇団と『もののけ姫』の異色のコラボレーション、一度は見ておいて損はない。