宇野常寛
評論家。現代日本のポップカルチャーや文学についての評論を多数執筆。2011年4月から東京大学教養学部(駒場キャンパス)にて自治会自主ゼミ「現代文化論」を担当。2011年秋学期は明治学院大学にて「現代文学論」を担当。

小林:誰がなんのきっかけでポンと出てくるかわからないよね。例えば、河西智美なんてそうだけど、最近1カ月1万円生活をリタイヤしてむちゃくちゃに批判されてたよね。それを見て、ワシが「人生舐めてる女はかわいい」って言ったら、そのバッシングが全部ワシのところに向かってきてしまって(笑)。

濱野:そこがいいじゃないですか(笑)。あれはカッコよかったですよ、ほんと。

小林:けど、あの後すぐだよ。ソロデビューが決まって。あれ、ものすごくビックリしたよ。こんなに早く決着がついてくれるなんて。河西智美はガチ馬だよね、あれ1つで浮き上がってくるわけ。何かをきっかけに女の子の何かを引き出すっていうシステムがすごいなと思う。だから、運営側はたいしたもんだと思うよ。

濱野:その偶然性で何が起こるか分からないというのが、AKBの面白いところで。だからガチ感が出ちゃうわけですよね。


前田敦子と山本彩

中森:さっき大島優子の話したけど、前田敦子が辞めたことはまだ解決してないね。

小林:そうかなぁ。

中森:この前もあっちゃんがテイラー・スウィフトと対談したでしょ? そのこともワーっと2ちゃんでディスられてて。AKB卒業したらなくなるかと思ったんだけど、アンチがそっくりついていってるんじゃないかっていうくらい、やっぱりあっちゃんが持ってるテンションってすごいんだよね。そこはなかなか埋められないんじゃないかなと思いますよ。

濱野:そうかもしれないですよね。

宇野:それはね、やっぱり残されたメンバーが倒すしかないんですよ。

中森:前田敦子、巨大だよ?

小林:ワシは次の推しメンがいっぱいいすぎて頭の中が混乱してるんだよ。もう、前田敦子どころじゃない(笑)。

宇野:さっしーの、「推しメンは変えるものじゃなくて増やすものって」って名言もありますからね。

小林:いい言葉だよね。ワシはね、AKB全体を次に引っ張っていくのはさや姉だと思う。王道アイドルらしいかわいさだけじゃなくて、ある種の男っぽさとかね、そういうところも出せるしね。彼女はすごいものを持ってるんじゃないかと思うよね。

濱野:さや姉は握手会も何回か行きましたけど、やっぱりNMBのリーダーとしての自覚がものすごすぎて。僕の友達が握手会にいって、あるメンバーが批判されてる時期で声をかけてあげて下さいって話したら、すごい真剣な顔で「わかりました、私に任せてください」みたいな感じだったらしいんですよ。握手会のたった10秒ですよ。

宇野:AKBっていうのは第1期からあっちゃんっていう絶対的なエースがいて、彼女が無数のアンチにさらされながら、まさにAKBの中心として引っ張っていった。これが表の顔というか文化的象徴ですよね。それに対して、たかみなという政治的なリーダーですよね。中を統率するお姉さん的な役割としていた。CMの時も話したんですけど、ポスト前田敦子の話ばかりしていてもダメなんですよ。たかみな的な存在がいかに継承されていくのか、分散されていくのかっていうのをね、僕ら真剣に考えないと。

濱野智史
社会学者・批評家。専攻は情報社会論・メディア論。インターネットコミュニティの研究を専門とする。国際大学GLOCOM研究員。共著に「ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇」「ised 情報社会の倫理と設計 設計篇」(2010年、河出書房新社)。12月7日に筑摩書房から「前田敦子はキリストを超えた 宗教としてのAKB48」を発売する。

濱野:ポストたかみなでいうと、まさにさや姉なんかはたかみな的思考を持っているメンバーですよね。

宇野:いやぁ、僕はね固有名詞が頭の中にあって。察しのいい人はもうわかっていると思うんですけど、初期AKBが盛り上がっていく時代と、新しい時代との中間に位置する9期メンバーで後輩の面倒見もよくて圧倒的な人望を持ってるね、あるメンバーの名前が急浮上してくるわけですよ。

濱野:引っ張りますね(笑)。

宇野:分かんないんですか、小林さん!

小林:誰、それ。

宇野:ちょっと、待ってくださいよ小林さん! 横山由依さんですよ。

小林:あー、なんだ。我田引水か(笑)。横山由依ってそれほど人望あるの?

濱野:確かに後輩からの人望もありますね。ポストたかみな的なところもあるかも。そういうゆいはんがNMBに送り込まれてるっていうのも面白いじゃないですか。


メディアとアイドル

宇野:『ウルトラマンサーガ』も『AKB0048』もすごくいい作品だけど、結局、今日佐藤さんと会っていることの方が彼女に惹かれているわけじゃない? これがAKBのすべてを表しちゃってて。同じようにAKBに魅せられたクリエイターとかメディア人がコラボをやりたいと思ったりもしてると思うんだけど、AKBに限らず最近のアイドルグループに乗っかってね。その時に中途半端なコラボをやると返り討ちに合うんだよね。やっぱり、何か特殊なアプローチがないと。しかも、どんなにいいコラボをやったとしても握手会に行って本人と10秒話す方が強い。直接会わせて、その近接性で人をどんどんハマらせていくというシステムに対してやはり既存のメディアの担い手たちはどう対抗していくのか、もっとビビんないといけないと思うね。

濱野:メディアが生まれたからアイドルが生まれたわけじゃないですか。つまりテレビのむこう、銀幕のむこうで遠い存在だから好きになるというのがアイドルだったのに、AKBになるとそれがとっぱらわれて、むしろテレビで見るとそこまで好きにはならないのに、実際に会うと、やべ! かわいい! ってなっちゃうっていう。メディアをとっぱらってしまったのがAKB。そういうところがAKBの面白いところなんじゃないかなと思います。

中森:俺だって、さっきからずっと、これ終わったらすーちゃんをフォローして、フォローがえしお願いしますってやらなきゃなって思ってるよ。僕みたいな50過ぎた人間がね(笑)。実存とメディアが対立しない。むしろ、今のハイパーメディアなんていうものは、会うことの情報よりもかなり劣っていると。それをAKBは我々に教えてくれたんだよね。一見、逆説のようで、実はまともなこと。アイドルが教えてくれたっていうのが面白いよね。

小林:いろんなメディアがあってね、ワシは全部を使いこなすことはできてないんだけども。けど、それだけいろんなところでAKBに出会えるんだね。

これから先、世の中に明るいことはないよ(笑)。つくづく最近、思っちゃうね。無駄に日本銀行がお金を刷りまくって円安誘導すればとか、ハイパーインフレ起こしたりだとか何が起こるかわからないしね。実体経済をなんとかしないといけないのに、まだそのことに気づいていない政治家がいてね、そんな日本に明るい未来はないわ。今から少子高齢化の社会になっていく中で、そういう不安の影が時代に落としているから、AKBを見るとすごく気が晴れるんだよね。その不安の影と陰々滅滅たる感情というのは、ワシがいちばん持ってるから。

ネットとかでAKBに対してものすごい罵詈雑言を言っているひとたちですら、やっぱりそのことに生きがいを感じてるんだよね。そういう意味でもAKBは宗教的存在だし、そんなアイドルの時代がやってきたんだと思う。それは、日本にとって幸か不幸かわからないんだけどもね。