――毎年、新しいアトラクションを企画しているわけですが、日々心がけていることやご苦労などはありますか。
五味「実は僕の場合、常に『恐怖』を意識してアンテナを張っているわけではなく、普通に生活をしている中で『あ、こういう暗がりは怖いんだ』とか『こういうふうに曲がる道は怖いんだ』というところについ目が行ってしまいます。『人はこの場所のどの部分で不安を感じるのだろう』と思うと、実際に自分でも味わって確かめてみたいとは思いますが、アイデアを出すのにそれほど苦労している記憶はありません」
――では、五味さんのプロデュースしたお化け屋敷は他の恐怖系アトラクションと比べて何が違うのでしょう。
五味「僕は現場にいる時間が他の人と比べてかなり長いと思います。こういうアトラクションの場合だと、僕みたいな立場の人間は、引き渡した後すべて運営任せというケースがほとんどだと思いますが、僕はその後もずっと現場に通います。そこでじっくりお客様の様子を観察することで、より面白いストーリーや設定、演出が思い浮かび、すぐに試せるんです」
――では、例えばお芝居の初日と千秋楽で演出やセリフが違っていたりするようなことがお化け屋敷にもあったりするのですか?
五味「もちろんあります。お化け屋敷も初日と最終日では多いに違いますし、期間中もずっと進化しています。『ここから人形の肩が見えるのがいいのか悪いのか』『それならあと30cm右にずらそう』みたいな微調整は期間中、開園時間が終わった後も終電まで残って続きます。そうして次の日にお客さんの反応を見て、ハマったのかハマらなかったのか検証し、結果を自分の中に蓄積していって、次の演出につなげていきます」
――そう聞くと、お化け屋敷には極めてアナログ的というか、一方通行な単なるデータのやりとりにはない「ぬくもり」を感じます。
五味「僕らは人を生で驚かせたり怖がらせているわけですが、それこそ100人いれば100通りの反応や思いがあります。だからこそ、その人その人に合うように人間がやった方が面白いに決まってますよね。結局『恐怖』はお客さまの想像力によって生み出されたもの。私たちはその想像力をどのように刺激し、止めたくても止められない状況に持って行くかがポイントなんです。単なるデータをもとに最大公約数を取って、このシステムでこういう演出がいいだろう、とカチッと決められないところがあり、求められるものが日々、変わっていく。大変だけどそこがまた面白い。この作業はこれからもずっと続いていくと思います。100%正解、ということは永遠にないでしょうね」
――そのようなエンタテインメントはほかに類を見ないのではないでしょうか。
五味「僕がわりと似ていると思うのが、お笑いのライブです。なぜなら価値基準がすごく明確だから。『面白い』か『面白くない』か、それしかないですよね。お化け屋敷の場合も『怖い』か『怖くない』か、それだけなんです。しかも生で瞬間的にやらないといけないし、そこですべての勝負が決まってしまう。それをずっと続けていくのはとても大変ですが、貴重で面白い経験でもあります」
――それは確かにやりがいがありそうですね。
五味「その代わり失敗したら、もういてもたってもいられなくなりますよ。こちらが一生懸命考えたお化けや演出にお客様がまったく反応しなかった時ほど恐ろしいことはありませんから(笑)」