「シチズンはチタニウムウオッチの先駆者」の自負が原動力に

今回の発表会では、シチズン時計環境企画室室長、井上健氏と、同社商品企画本部デザインセンターの井塚崇史氏、そして久保田氏を交え、アテッサの大きな特徴でもあるチタン素材をテーマにトークセッションが設けられた。こちらも興味深い内容だったので、一部だが紹介しておきたい。

シチズン時計環境企画室室長の井上健氏(写真左)、商品企画本部デザインセンターの井塚崇史氏(同右)

同社が時計用の金属素材としてチタンに目を付けたのは1964年。いまから48年も前だった。

「当時、チタンは宇宙産業で使用される先進素材でした。飛行機にも多く使われていますね。軽くてさびにくく、再利用が可能で環境に優しく、金属アレルギーなどの弊害もないことから人にも優しい、まさに腕時計に最適な素材だと思いましたね」(井上氏)

ところが、こと加工においてチタンには問題が山積していたという。

「困ったことに、性質上、プレス加工ができない。しかも削ろうとすると、刃先の摩擦で溶けてしまい、刃先にくっついてしまう。磨こうとすると、今度は傷が付いてしまってきれいに磨けない。チタンは"打てない、削れない、磨けないの三重苦"なんて言われましたね」(井上氏)

そんな中で苦労を重ね、ケースにチタンを初採用した世界初のチタニウム・ウォッチ「X8クロノメーター」をシチズンが発売したのは1970年のこと。だが、1987年に「アテッサ」が発売されるまで、17年もの歳月が費やされている。

「その間、いろいろなことがありました。たとえば切削や研磨の段階で、チタンは摩擦熱で削りカスが燃えるんですよ、線香花火みたいに。それで切削機や研磨機をまるごと燃やしちゃったり……。それが一度や二度じゃない(笑)。消防車が出動したこともありましたね」(井上氏)

それでも、シチズンは決してチタン素材の研究開発をやめようとはしなかったという。

「シチズンはチタニウムウオッチの先駆者であるという自負と、先駆者であり続けたいという思いがあったんですね。技術者もそれに応えるべく研究を続けて、量産化を実現することができた。会社全体の思いがひとつにまとまって、みんながそれに向かって進んでいく。それが、シチズンのチタニウム外装における大きなアドバンテージとなっていると思います」(井上氏)

「加工技術の進化は、デザインにも大きく影響します。『アテッサ』の初期モデルを見ると、先進性を感じさせながらも全体的にやや丸みを帯びたエッジの緩いラインでまとめています。切削や研磨により、鋭いエッジが出せなかったからだと思います。現在の『アテッサ』は直線的なエッジの効いたシャープなラインでまとめていますし、デュラテクトなどの表面硬化技術や着色が確立し、素材的なデザイン上の制約はほぼない。25年の歴史と総合加工技術の進化があってのものですね」(井塚氏)

「『アテッサ』とは、イタリア語で『予感』『期待』という意味です。地球と人との幸福な未来への予感や期待という意味を込めて名づけられました。今後も、その名に恥じない機能とデザイン、そして素材技術についても追求する時計であり続けたいと思っています」(久保田氏)

世界で初めてケースにチタンを採用した腕時計、シチズン「X8クロノメーター」

1987年に発売された最初の「アテッサ」。シチズンが誇る金属加工技術を前面に押し出したモデル

あらためて最新の25周年記念モデルを見ると、総合金属加工技術の進化とデザイン精度が密接に関係していることがわかる

会場には歴代の「アテッサ」が実物の立体年表として展示されていた

1995年発売の「アテッサ」。地球温暖化など環境問題への対応として、世界初の二次電池ソーラーを搭載。時計初のエコマーク認定商品となった

2009年発売「アテッサ」。りゅうずのみの操作で世界26都市の時刻に切り替わる「ダイレクトフライト」機能を世界初搭載。「アテッサ」の歴史はつねに世界初がある

「CITIZEN=ATTESA」へ。志摩氏のプレゼンテーションにあった言葉に象徴されるように、まさにシチズンを背負って立つ看板ブランドへと成長した「アテッサ」。記念すべき四半世紀を経て、さらなる進化を感じさせるイベントだった。