じぶん銀行は2011年10月11日、インターネットを通じた個人向けの中国人民元の外貨預金の取扱いを開始。中国人民元建て外貨預金を、個人顧客を対象に幅広く販売するのは、本拠を日本に置く金融機関では初の取り組みという。画期的ともいえる中国元預金のサービスを始めた狙いについて、同行 商品開発部長の榊原一弥氏にインタビューした。

じぶん銀行の中国元預金は、ケータイ・スマートフォン・パソコンで口座開設から預入れ、払戻しなど各種取引が利用できる。普通預金は1中国元から手軽に預入れでき、定期預金は1カ月・3カ月・6カ月・1年から預入れ期間を選択し、1万円から預入れできる。

日本の銀行からは預金ができない状況が続いていた「中国人民元」

――中国人民元建て外貨預金を、個人顧客を対象に幅広く販売するのは、本拠を日本に置く金融機関では初ということですが、日本における他行の中国元預金サービスはどのようなものなのでしょうか?

個人向けの外貨預金として中国元を取り扱っているのは、中国の中國銀行、HSBC、スタンダードチャータード銀行の3つの外資系銀行でしたが、このうちHSBCは先般、中国元を取り扱うHSBCプレミアのサービスを日本から撤退することを公表しました。これらの顧客層は、いわゆる富裕層で、スタンダードチャータード銀行では大口預金者向けのサービスがメインだったり、中国銀行は中国と関連するビジネスを行っている事業主らが中心だったりというのが現状です。つまり、中国元投資にご興味のある方でも、誰もが気軽に資産形成のひとつに加えることはできなかったのです。

――これまでは、中国元預金は、富裕層中心のサービスだったのですね。じぶん銀行が、富裕層ではなく、誰でも利用できる金融商品として、人民元預金を始めるようにしたのはどうしてでしょうか?

じぶん銀行は、魅力のある金融商品を、常に持ち歩く携帯電話やスマートフォンを中心に、ネットを通じていつでも手軽に利用できる銀行であるというのが、当行の使命だと思っています。また、金融商品を、できるだけ小口からでもご利用いただけるようにご提供しようと思ってきました。

じぶん銀行 商品開発部長の榊原一弥氏

外貨預金は銀行サービスの中でメジャーになり、当行でも通貨ラインナップに将来性を期待できる通貨を追加したいと考え、邦銀では取り扱いのなかった中国元についてずっと調査を続けてきました。しかし、以前は中国非居住者が中国元の投資ができる市場がなく、日本の銀行からは預金ができない状況が続いていたのです。

しかしここ近年、香港のオフショア市場において、個人向けの中国元取引が急速に発展してきた背景を受け、徐々に中国当局による規制緩和がなされてきました。その結果、2010年夏頃から、中国国外に居住する個人も中国元取引ができるようになったのです。

中国元も「1中国元」から預入れ可能

――中国側の規制緩和のタイミングをつかんだわけですね。

こうした状況を受け、2010年の後半から、邦銀では初めてとなる中国元預金の個人顧客向け取り扱い開始へ向けて、本格的に商品の開発に入っていきました。それから約1年かけて、中国元預金のサービスの開始にこぎつけたのです。

当行の親銀行である三菱東京UFJ銀行は香港にも拠点があるので、中国情勢に関する知見等の協力がいただけたことも、他行に先駆けて中国元預金のサービスを開始できる要因のひとつとなりました。

――さきほど、じぶん銀行は魅力のある金融商品をできるだけ小口から提供するのが使命とおっしゃっていましたが、どれぐらいから預金できるのでしょうか?

当行の外貨預金は、1通貨単位から預金することができます。他の銀行などの場合、「外貨預金は10万円から」などの条件をつけているところもあるのですが、当行の場合は、各通貨の最小単位から預金ができるようにしています。もちろん、中国元も1中国元からお預入れいただけます。

というのも、我々が携帯電話を主な取引チャネルとして開業した銀行であり、お客様は若い世代も多いことから、資産運用に慣れていない方が多くいらっしゃいます。そのため、できるだけ小さい単位から誰でも取引できるということを目指してきましたので、1通貨単位から預金できるようにしているのです。

――比較的若い世代を、対象と考えていらっしゃるんですね。

当行の利用者を世代別に見ると、30代が最も多く、次いで40代、20代となり、20代~40代で約8割を占めます。そうした世代の方々に、今これからの資産形成のひとつとして、中国元預金をぜひ利用してほしいと思っているのです。

中国に対して、カントリーリスクなどのネガティブなイメージを持っている方がいらっしゃることも承知しています。しかし、今や先進国の経済成長の勢いが鈍っていることは周知の事実であり、これからは経済発展の著しい中国を、投資先として魅力的だと考えていらっしゃる方も多いと思います。金利はそれほど高くありませんが、それは、皆が中国人民元をほしいという状況になっており、その影響によるものです。

中長期的には中国人民元が米ドルに対して徐々に切り上がるのでは、という期待もでき、米ドルの外貨預金をお持ちであれば、一部を中国人民元にシフトすることでポートフォリオ効果を得られるという考え方もあるのではないでしょうか。

世界の投資家の間でも、これまで保有してきた米ドルやユーロから、アジア通貨にシフトしてきているという流れもあります。

円しか持っていないことのリスクからの防衛策にも

――なるほど。確かに、そうした流れにあるのは事実ですね。

日本に住んでいると、円資金だけを持っていればいいというふうに感じますが、食べる物も着る物も、全部貿易が関わっています。それであれば、知らず知らずのうちに、円しか持っていないということへのリスクも考えられ、それが実際に生活に跳ね返ってきます。そうしたリスクからの防衛策としても、中国人民元を資産として持つのは、大事なことなのではないでしょうか。

――今年は中国共産党大会などもありますが、今後の中国経済の見通しを教えてください。

中国は政治運営に長けており、日本がこれまで失敗してきたことを大変よく勉強しています。プラザ合意後の長期的な円高トレンドや、その後のバブル発生・崩壊などを繰り返さないよう、中国政府は経済に強いコントロールをかけているというのが印象です。そうした意味では、一見景気を抑制しようとしているように捉えられることも、コントロールの範囲内に経済をおさめようとする動きととらえられます。

中国人民元が一時に大幅に切り上がることを期待される声を聞くことがありますが、これは誰にも予測できないことです。さきほど申し上げましたように、中国政府は安定した政策運営を行っていることもあり、あまりドラスティックな政治イベントを過度に期待しないほうがよさそうです。

ただ、中国経済の成長が今後も持続することを前提にすれば、米ドルに対してゆるやかに上昇ペースをたどっていく可能性が高いと考えられますね。

――本日はありがとうございました。

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