『闇金ウシジマくん』の真鍋昌平原作による、無気力な1人の若者・砧(妻夫木聡)の人生を一変する衝撃的な出来事と彼の劇的な変化を描く映画『スマグラー おまえの未来を運べ』。本作はもちろん、『鮫肌男と桃尻女』(1999年)などで見せたスピーディーかつスタイリッシュな映像で国内外でも高く評価されている石井克人監督に話を聞いた。

石井克人
1966年12月31日生まれ。新潟県出身。武蔵野美術大学卒業後、CMディレクターとして活躍。1998年、劇場映画の初監督作『鮫肌男と桃尻女』が話題となる。代表作に『PARTY7』(2000年)、『茶の味』(2003年)、『山のあなた 徳市の恋』(2008年)などがある

――まずは製作の経緯からお聞かせ下さい。

石井監督「そもそも原作が映画的な構成なので、原作に忠実にやれば面白くなるだろうという思いは最初からありました。ストーリーもある程度は固まっていたので、あとは役者のみなさんにお任せします、という感じでしたね。キャストのみなさんには僕が書いたアニメのキャラクター表みたいな設定を『これでお願いします』とだけ言って渡しました。基本的にあれこれ喋るのは苦手なので(笑)」

――今作では監督自身がアクションシーンの絵コンテを書いたそうですが、映像へのこだわりはかなり強かったのでしょうか。

石井監督「絵コンテは2カ月~3カ月くらいかけてクランクイン前日になんとか全部書き上げました。ドラマ部分に関しては多少崩れてもなんとかなりますけど、僕の中で『時間がないから撮りたい画が撮れない』というのはありえない話なので、そこはもうしっかりと書きました。もちろんすべてドンピシャの映像が撮れるとは限りませんが、絵コンテをあらかじめ用意することで照明をはじめ他のスタッフが準備しやすくなって、現場がスムーズに進むというメリットがあるんですよ。漠然と撮るとなると、どうしても時間が必要になってくるじゃないですか。それにマンガが原作なので、なによりそのパワーに負けない画を作り込む必要がありました」

――その中でも「ファントム」というハイスピードカメラを使った、安藤政信演じる中国人殺し屋「背骨」のアクションシーンが際立ってました。

石井監督「背骨は5秒で5人殺してしまうような凄腕の殺し屋なので、映像も5秒で終わってしまったら面白くないじゃないですか(笑)。ですからスローの世界で見せたかったんです。ただその分、撮影時間はすごくかかりましたね。なにしろ一瞬の出来事なので、現場でとりあえずやってみて、再生して『あ~、撮れてる、撮れてる』みたいな確認作業でした(笑)。結局、撮影期間1カ月のうち半分の2週間はアクション撮影にまるまる費やしました。もしかしたら今までの仕事の中で一番、働いたかもしれません(笑)」