映画を観る際、事前に予想していた内容と実際の内容が違っていた、という経験は誰にでもあるだろう。だけどほとんどの場合においてそれは「泣けると思ったけど泣けなかった」とか、「想像よりもCGがすごくてびっくりした」といった"期待と結果の差異"で語られるレベルの話であり、たとえばディズニーアニメを観に行ったらカンフー映画が始まった、みたいな出来事はまずありえないといっていいですよね。

そのありえないはずの話がありえた、というのが本作『エンジェルウォーズ』なのです!

『エンジェル ウォーズ』
(C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES

……いやだってさ、予告編とか公式サイトで目に飛び込んでくるのは、かわいい女の子たちが銃をぶっ放して、ロボットやドラゴン相手に戦っているシーンなのよ。寺にいるくせになぜか英語を喋る怪しいオッサンからもらった日本刀を背中に背負って、ガトリングガンで攻めてくる甲冑の武者と戦ったりしているわけ。こんなインパクトある場面を見せられたら、そりゃB級SFアクションなのかな、って思うでしょうよ!

ところが……すいませんでした、ぶっとびました! 実際は全然B級じゃない。映画は冒頭、印象的な音楽と共に葬儀のシーンで、母親の死の悲しみに暮れる少女と、遺体の横で誰にも悟られぬよう密かに笑みを浮かべる初老の男性。どうやらこの男は彼女たちの継父らしい。この冒頭、全くセリフはなく、逆にそれがBGMを引き立たせていて、まるで何かのミュージックビデオでも見ているかのような不思議な感覚に陥る。一切のセリフや説明がない中で、観ている側には何が起きているのかしっかり分かるのがすごい。そして気がつくと作品の中へ引き込まれてしまっているのだ。

一連のオープニングシーンは非常にシリアスかつ重厚で、SFバトルアクションっぽいノリは微塵もない。というか、ここから何をどうすれば予告にあったあのバトルにつながるのかさっぱりわからない。きっと皆さんも、同じ感想を抱くことだろう。

しかし、これがちゃんとつながるのである。しかもごく自然に、無理のない形で。どういうことかというと、"精神病院に入れられた主人公が暗い現実から逃れるために創り出した空想の世界が、SFアクションパート"なのだ。誤解を恐れずにいえば、『インセプション』あたりが比較的イメージとしては近いと言えるだろうか。

そんな風にかなりクセのある構成なので、最初こそ戸惑うだろうが、次第に主人公と意識がシンクロし、そのうちバトルアクションに入ることでホッとしている自分に気づくはずだ。そうなったらもう、この不思議な世界観からは抜け出せない。そして物語は現実と虚構を行ったり来たりしながら予測できない方向へ進み始める。どこまでが現実で、どこからが虚構なのか、そしてラストにはさらなる驚きが待っている。何重にも張り巡らされた物語の構造は非常に複雑だ。どうしてもバトルアクションが派手なので、そこに目立つけど、実際にはそう単純な映画ではないのである。

さて、そのバトルアクションパートだけど、制作費の大半はここだろうなと思うほど豪勢に作り込まれていて、完成度はかなり高い。ほぼフルCGで作られた世界は、日本のアニメやマンガにかなり影響を受けているようで、和と西洋、過去と未来が融合したオリジナリティ溢れる造型で、見ているだけでワクワクさせられるし、何よりアクションがド派手で気持ちいい。特に主人公が日本刀で甲冑武者と戦う場面では、緩急をつけた映像でスピード感と迫力を見事に演出している。このへんは『300』で怒涛の戦闘シーンを作り上げたザック・スナイダー監督ならお手の物といったところだろう。さらにロボット兵団や中世の城でのドラゴンとの対決など、バラエティーに富んだ世界観は観客を最後まで飽きさせることがない。空想だからこその自由度を最大限に生かした映像美の極致、これはやはりスクリーンでじっくり堪能してもらいたい。

また、メインキャストとなる5人の女優もそれぞれがとても魅力的だ。彼女たちは現実世界とSFアクションパートの両方に登場し、セクシーとパワフルというまったく違った顔を見せてくれる。コスプレチックでやたら露出の多い衣装も男性にとってはご褒美かも。まだ日本ではそこまで知られていない彼女たちだが、ハリウッドの次世代スター候補として覚えておきたいメンツである。

……という感じに本作を紹介したわけだけど、その型破りな魅力は伝わっただろうか。レビューでこんなことを書くのもどうかと思うが、これほど面白さを言葉にしづらい映画も久々だ(笑)。つまるところ『エンジェルウォーズ』は、SFバトルアクションでもあり、サスペンスでもあり、ヒューマンドラマでもある。ザック・スナイダー監督がアニメやマンガ、ゲームなどのジャパン・カルチャーへのリスペクトと、自分のやりたいことを全部つめこんで、しかし破綻することなくまとめあげたという恐るべき作品なのだ。劇場で、その世界へのトリップを存分に楽しんで欲しい。

なお、同作に登場するキャラクターに注目した記事【映画『エンジェル ウォーズ』の登場人物から分析するあなたの恋愛傾向】も合わせてチェックしてみよう。