国土交通省は13日、「東京の地下鉄の一元化等に関する協議会(第3回)」の議事概要をWebサイトで公開した。2010年11月17日に非公開で開催された会議のまとめで、出席者は国土交通省から鉄道局長と官房審議官、財務省から参事官と政府出資室長、東京都から副知事、都技監交通局長、東京地下鉄(東京メトロ)代表取締役社長の8名。東京メトロと都営地下鉄の統合の是非について、それぞれの立場で説明する内容となっている。

東京メトロ06系

都営地下鉄5200形

財務省は東京メトロの過半数の株主という立場から、両社の収益力を重視。証券会社3社による試算を元に、都営地下鉄の株式価値はマイナスであるという判断を示した。これは経営統合によって東京メトロの価値が損なわれるという懸念を示したといえる。

国土交通省は、国が東京メトロの株主という事実から、東京メトロは国民の財産という考え方を示した。経営統合には東京メトロの株式価値を毀損しないことが基本で、現状では東京メトロの価値を損ねると判断。都営地下鉄の債務圧縮が必要という基本条件を維持した。東京メトロの完全民営化は法律で規定されており、将来的には株主である国と東京都は株式を売却する方針である。しかし、東京都の長期債務や累積損失の見通しでは、東京都が東京メトロの株式配当を受け取り続けることになっており矛盾していると指摘した。 さらに、東京都が主張する「運賃の乗継負担の軽減」について、乗客が都営地下鉄と東京メトロを乗り換えて移動する場合、現状では「初乗り運賃を2度支払い、若干の割引制度があるものの運賃が高額になっている」という状態は、「経営の一元化をしなくても、現行制度の中で負担軽減を実施できる」という考えを示した。また、報道で都側が示した「九段下駅の壁」についても、一元化を前提とせず「両社が利用者本位で具体的なサービス向上策を話し合ってほしい」と要望した。

「九段下駅の壁」とは、九段下駅において東京メトロ半蔵門線押上方面と都営新宿線新宿方面のホームが一体として作られているにもかかわらず、壁を設けて非常口のみ設置されている状態を指す。両路線の利用者は、本来は同一のホームで乗り換えができる。しかし、この壁があるためにわざわざ改札階を迂回する必要がある。東京都はこの壁を「経営主体が異なるためにできた」とし、「一元化すれば取り払って便利になる」と主張している。

東京都は、財務体制、収益見通しの指摘について反論した。100円の収入を得るための費用(営業係数)は「東京メトロよりも都営地下鉄のほうが優っている」とし、長期債務に付いても確実に償還が進み、財務状況は公営企業会計上も問題なく「経営一元化によっても財務的に支障はない。現在の株式価値で評価せず、将来どうなるかという観点が重要」という考えを示した。

また、東京都は、東京メトロはバリアフリー対策が遅れているにもかかわらず、不動産投資を行っており公共性を前提とした地下鉄事業について疑問を呈した。「九段下の壁」については、一元化すれば不合理を解消できるという例として示したため、壁に関する議論は一元化という前提が必要と主張した。

東京地下鉄は、乗り継ぎ負担の軽減や九段下の壁問題に付いて「経営一元化を前提としなくても取り組める」という考えから、東京都交通局と協議したい意向を表明した。また、東京都から指摘を受けたバリアフリー化については、古い路線でスペースが狭いなどの理由で遅れているものの「今後10年間で100%の整備を目指す」と決意を延べた。また不動産投資については、「鉄道施設の上空や事業の空地を有効活用したもの」と説明し、営団地下鉄の完全民営化の方針に則り、経営基盤強化のために実施しているとして理解を求めた。

この会議では、国が経営一元化によって東京メトロの価値を毀損する懸念を示し、東京都が一元化の将来性を主張した。また、経営一元化のメリットとして地下鉄利用者が関心を寄せる「利用しやすい運賃」「乗り換えの利便性向上」について、「経営一元化とは関係なく実施可能」という考え方が明らかになった。