宇宙から深海まで、山根一眞が求める世界とは?

前回に引き続き『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』の著者、ノンフィクション作家・山根一眞氏のインタビューをお届けする。

本書に限らず、『メタルカラーの時代』など一連の著作で日本における"モノ作り"の世界を紹介し続けている山根氏。かつての"電気工作少年"であり"地質学少年"は、興味の対象を宇宙から深海にまで広げ、そこに関わる技術者たちの活躍を描く作家という立場となった。日本の科学技術を、それを支える創造的な技術者たち(=メタルカラー)を取材し続けることについて、山根氏の思いを聞いた。

少年時代の旺盛な好奇心は衰えることなく、いまもって広範な世界に興味を示し続ける山根一眞氏。宇宙から深海の世界まで、また、"元祖モバイラー"としても知られる同氏に、最近のデジタルデバイス事情についても聞いてみた

──山根さんといえば『メタルカラーの時代』シリーズといった技術者たちにフォーカスしたルポルタージュなど、日本の科学力、技術力を微細に取材し、素人にもわかりやすく紹介する著作が高く評価されています

山根氏 日本は科学技術立国だといわれています。それを支えているのは、日本が世界に誇れる優れた科学者たちや技術者たちの不断の努力なんです。ただ、彼らの取り組みが表舞台で語られることはとても少ない。いまでこそ、そのような"日本のモノ作り"の舞台裏で繰り広げられているドラマも注目されるようになりましたが、私が手がけ始めたころは、一般の人々にも理解できる視点でそれらが語られる機会はほとんどなかった。

私は文系の人間ですが、文系の視点があるからこそ描写できる理系の世界があるのではないか──そう考えて科学分野のノンフィクション作品を手掛けてきました。科学技術関連のトピックを世の中にわかりやすく伝えて、理解を広めるといった文化的な取り組みも、広い意味では科学技術を支え、発展につながるはず。そんな思いを一貫して持ち続けてきました。

──どんなテーマの著作にも通底する、科学技術やそこに関わる人々への敬意、向けられるまなざしの温かさなど、山根さんのならではの視点がとても印象的です

山根氏 私のノンフィクションは、基本的に「ホメるノンフィクション」。わかった風で斜に構えたり、批判ありきで揚げ足を取るようなことはしない。素晴らしいと感じたことにはまっすぐに「これはスゴイ!」と言いますから。技術者、科学者たちの地道な取り組みによって、私たちは数々の恩恵にあずかっているのに、彼らはなかなかホメてもらう機会がない。だからこそ、きちんとホメたいんです。それで少しでもモチベーションを高めてくれるのなら、こんなにうれしいことはない。要するに、私のしていることは「応援」なんです。日本のモノ作りの素晴らしさ、技術力の凄さ。それを支える人々を応援したい、という思いが強いですね。

──モノ作りや科学技術を描くことをライフワークにした理由は?

山根氏 子どものころから自然科学や機械が大好きだったんです。そのころの好奇心がそのまま現在の仕事につながっている感じでしょうか。

東京の東中野で育ったんですが、当時、弟と一緒の子ども部屋は町工場みたいでしたよ(笑)。弟は機械系が好きで木のラジコンカーを作ったりしていて、私の興味は電気系。無線機を作ったり、アンテナを立てて世界中の短波放送を受信したりするのに夢中だった。あと、弟は天文少年で、私は地質学少年。お互いに影響を受け合いましたね。

私は化学も好きだったので、部屋には試験管とか怪しげな薬品もたくさんありました。クーラーなんてない環境だから、真夏に模型用のエンジンオイルが容器の中で気化して、突然ブワーッと吹き出して部屋中オイルまみれになったり(笑)。ピクリとも動かなかったエンジンが真夜中になっていきなり唸りを上げて、隣の部屋で寝ていた親父が「オマエら何やってんだ!」と怒鳴り込んできたり……そんな日常を過ごしていたんです。……つづきを読む