パソコンや携帯電話を長時間使用していると、眼精疲労や肩こりなど体の不調に悩まされがちだ。何かよい対策はないものだろうか―。今回は、PC ヘビーユーザーほど気をつけたい目の話を東京医科歯科大学名誉教授の所敬先生にうかがった。

ディスプレイを注視するとまばたきの回数が3分の1以下に

東京医科歯科大学名誉教授の所敬先生

パソコンや携帯電話、ゲームを長時間使用すると眼が疲れやすくなり、ドライアイやVDT症候群の原因となりやすい。所先生によると、それにはまばたきが起因しているという。「パソコンや携帯電話の画面を注視するとまばたきの回数が少なくなります。通常は1分間に15回程度まばたきをするのですが、画面を凝視していると3分の1以下に減ってしまうことがあります」。

上下のまつげの内側に約20個ずつ油を分泌する腺がある。そこでまばたきの度に、目の表面に油の膜が張り、水分の蒸発を防いだり、目の表面を平滑にする役割をもつ。この油の膜は10~15秒で破れてしまうが、通常のまばたき回数であれば油の膜が破れることはない。しかし、まばたき回数が減ると油の膜が破れたままの状態になり、涙は蒸発して目が乾きやすくなってしまう。

まばたきはワイパーのようなもの、と所先生は続ける。「ワイパーは雨天時はいいが、雨量が減ると動きが悪くなり、カサカサになる。これがまばたきでも起こるのです」。油の膜が破れて摩擦が起きると、角膜や結膜の細胞に障害が起き、目の表面の細胞に傷ができやすくなるという。

ドライアイになると、目が痛い、不快感のほか、まぶしいなど様々な症状が出る。また、角膜は痛みの神経がたくさんあるため、摩擦によって神経が露出し痛みを感じるようになる。さらに、神経が露出することで刺激が起きるので、かえって涙が出てしまうことも。こうした症状をドライアイでは慢性的に繰り返すことになる。「2000年に日本眼科医会がオフィスワーカー1、025人を対象に行った調査によると、全体の3人に1人、コンタクトレンズ装用者の2.5人に1人がドライアイだったそうです。今から10年前ですから、今はもっとドライアイの頻度は増えているかもしれません」。

パソコンを長時間使用する際気をつけるべき点とは……

ドライアイの症状は慢性的に起こるが、パソコンを長時間使用する人は以下の点に注意することである程度症状が緩和できるという。一番簡単にできるのは、まばたき回数を増やすということ。「通常は1分間に15回位まばたきをしているので、意識してこの程度のまばたきをすると、油の膜が破れたままの状態にならずに済みます」。

目が普段から乾きやすいという人の中には、分泌する油が固めで分泌しにくいという可能性もある。「そうした場合は、お風呂に入った時にでも目を閉じた状態でまぶたの上から蒸しタオルであっためるなどするとよい。そうすると油が出やすくなりますよ」。

続いて、気をつけたいのが環境面。「パソコン画面にしろ、携帯電話にしろ、ディスプレイは下目線で見た方がいいですね。上目線で画面を見ると、空気に触れる目の表面積が広がってしまいます。下目線だと目を細めて表面積が狭くなるので乾きにくくなります」。

ネット検索などであれば目からディスプレイまで40cmぐらい開けるのが基本。また、書類やキーボードまでは、30cm程度にする。椅子の背もたれや机の高さなど調整し、ゆったりとした姿勢で臨むとよい。

また、文字の大きさはWordのフォントポイントで12ポイントを推奨している。「12ポイントは視力が0.3から0.4あれば見えます。10ポイントで文字を打っている人がいますが、余裕を持って大きな字で見た方が疲れないですよ」。

歩きながら携帯電話やゲーム……が一番目に悪い

厚生労働省の「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」によると、休憩時間は1時間につき10~15分間が推奨されている。仕事をしているとなかなかそうはいかない気もするが……。「画面を凝視しない作業を織り込めばいいと思います。打ち合わせの時間に使ったり、資料の整理に割り振ったり。仕事のスケジュールを見直すきっかけにもなると思います」。

また、ディスプレイは暗いと疲れてしまうので、明るい方がよい。「視力が極度に悪い人は背景が黒、字が白だと見やすくなります。また、真っ暗な部屋でディスプレイを見るのは非常によくない。必ず電気をつけてディスプレイをみるようにしましょう」。ただし、ディスプレイに反射が入らない様に気をつけるとよい。

歩きながら携帯電話やゲームをしている人をみかけるが、「あれは一番目によくない」と所先生は警告する。「目は1秒間に1~2回動いています。前後だけでなく、横にも動くことで、像をつくりだし、人間は物体を『見る』ことができるのです。逆に、目を固定して動かなくしてしまうと見えなくなってしまいます」。

歩きながら目を酷使すると、常時動いている目に余計な負担を与えることになり、より疲れやすくなるそうだ。「できれば、遠くを見た方がいいとされています。目のレンズである水晶体は、近くを見ていると膨らんだ状態になります。遠くを見て水晶体を緩めた状態にしてあげるとよいでしょう」。

また、最近のコンタクトレンズには、水の量が少なく乾燥に強いコンタクトレンズも登場した。「これまでのコンタクトレンズですと含水率が高く、水分が蒸発することで目が乾きやすくなる傾向にあった。最近登場したシリコーンハイドロゲルのコンタクトレンズは含水率が少ないだけでなく、酸素透過率も高い。角膜には血管がないので、外界から酸素をとっている。まぶたを閉じて寝ている時、角膜の周囲の血管などから酸素を摂るが目を開いている時より酸素量はわずかです。そのためうたたねをした時などにも酸素透過率が高いコンタクトレンズほど、目に酸素がいきわたり、目にとってはいい状態を保つことができるのです 」。

なお、日本で初めてシリコーンハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズを導入したのはチバビジョン(ノバルティスグループのコンタクトレンズメーカー)だ。同社から2004年に1カ月交換終日装用の製品、O2オプティクスを発売。この製品は、従来のソフトコンタクトレンズよりも酸素透過率が格段に高く、最長1カ月の連続装用も可能で、眼科医の検査・処方のもと必要に応じた日数の連続装用ができるという。

O2オプティクス

各社からシリコーンハイドロゲル素材のコンタクトレンズが出揃った現在、眼を酷使する環境の人は、コンタクトレンズについて眼科医に相談してみるというのもいいだろう。