日本で食べた本格的なナポリ・ピッツァがきっかけで渡伊

――ところで、どうしてピッツァ職人になろうと?

本格窯で焼くナポリ・ピッツァの味に魅せられてイタリアへ

20代前半の頃、日本で本場風のナポリ・ピッツァと出会って衝撃を受けたのがきっかけです。それまでにも、電気窯で分厚い生地のアメリカン・ピッツァをつくったことがあったのですが、本格窯で焼くナポリ・ピッツァは、生地のフチの部分がモッチリしていのに真ん中の部分は薄くてしっとり。その絶妙なバランスにとても感激しました。それでナポリピッツァを本格的に学びたくなり、すぐにイタリアに渡りました。

――修行の結果、ピッツァをおいしくつくるコツはわかりましたか。

一番大切なのはつくる時の気持ちだと思います。イタリアのピッツァ職人はいつも「自分がつくったピッツァが最高なんだ!! 」と自信満々。謙虚な日本人から見ると、自己主張する部分がとても新鮮に映るのですが、不思議なことに、こういう意気込みが味にもちゃんと表れてくるんです。私が大会で優勝できたのは、気持ちのレベルでイタリアの職人並みだったからだと思います。

――大西さんほどのレベルでもメンタル面が影響するのですか?

実際、いらだっている日や体調が優れない日は、いいピッツァが焼けないこともあります。うまくピッツァに"入魂"できないって感じ。そういう意味で、毎日毎回、100点満点を出し続けることはとても難しいのです。でもピッツァイオーロたちは「俺のピッツァが一番!! 」というプライドをもって、どんな時でも完璧なピッツァをつくろうとします。しかも彼らは仕事を楽しんでいるからすごい。キッチンではよく女の子の話で盛り上がったりしました。イタリア人らしいでしょ?(笑)。

――「Pizzafest」では、個人の部優勝後、2006年から同大会のテクニカル部門で「PIZZA SALVATOR CUOMO」チームとして3年連続最優秀賞を受賞しましたね。

はい。受賞作品の「ピッツァD.O.C」は、国内のSALVATOREの店舗でも提供されています(販売価格2,300円)。このピッツァは、生地の上にチェリートマトやモッツァレラチーズ、バジルをのせます。チェリートマトは仕込みの段階で、1つずつ十字に切れ目を入れて、中のタネの部分を取り除き、塩でもんで常温で2時間以上置いてから使います。こうすると、濃厚なトマト味が堪能できるのです。これがおいしくするポイント。

「Pizzafest」受賞作品の「ピッツァD.O.C」(2,300円)。「SALVATORE」で一番人気のメニュー

――トマト1つにしても手間ひまかけるわけですね。

生地だってそう。ピッツァの材料は小麦粉・水・塩・イーストで、パンよりもシンプル。だから発酵の具合やちょっとした技の差で味が大きく変わってしまう。その違いを敏感にキャッチするため、常に自分の感性を磨いていなくてはなりません。だから私は休みの日も、ピッツァを食べにいろんな店に出かけます。今の自分がまだ最高だとは思っていないので、日々、研究を重ねているところです。


イタリアでピッツァ職人の世界トップに輝いた大西さんは、例えるなら「日本ですし職人のトップに輝いた外国人」のようなもの。並大抵の努力ではたどり着けないのだ。取材中、自然体で対応してくれた大西さんだが、最後に一言。「ちなみに自分は血液型AB型。もともと細かいところまでこだわる職人タイプ」。そう笑いながらピッツァの生地をのばしていた。