「トレードシステムには賞味期限」「ロジックは非公開」
ジャックハマー投資顧問が開発したトレードシステム「MITコントロール」は、TOPIX先物を扱う。同社代表の池田耕治氏は証券業界出身ではなく、投資家出身。そのために、全てが"投資家目線"なのだ。例えば、冒頭からこんな爆弾発言をする。
「トレードシステムには賞味期限があります。永遠に利益を出し続けるシステムはありえません」(池田)。また、現在、多くのトレードシステムがそのロジックを公開するというオープンな方向に向かっている中で、池田氏は「ロジックは公開しません」。一見、否定的なことばかりを言っているようだが、実はこの二つの発言は、投資家目線なのだ。その理由を今回はご紹介したい。
池田氏の基本的な考え方はこうだ。例えば、ニューヨーク市場が10ドル値を下げたとする。翌日の日本市場も下げるだろう。日米の経済は密接にリンクしているので当然だ。しかし、では100円下げるのが適切だろうか、150円下げるのが適切だろうか。それとも、日米経済の密接度は以前より小さくなっているので、70円程度下げるのが適切だろうか。多くの人は、適切な下げ幅よりも過剰に反応してしまう。仮に70円程度下げるのが適切なのだとすると、実際はそれよりも大きく100円下げてしまうことが多いのだ。これは分かりやすく言えば、心理的な不安から下げすぎてしまうのだ。
しかし、市場は心理だけで動いているわけではない。いずれ時間が経てば、適切な価格に落ち着いてくる。池田氏は、この心理的な「価格差=心理的スプレッド」を狙いにいっている。つまり、池田氏にとっては、『適切な価格』にいかに他人よりも早く気づくかが勝負なのだ。
「為替の場合だと、米国の有名な投資家ラリー・ウィリアムズ氏は、ワイシャツの価格を参考にしろと言ってました。同じ品質のワイシャツをA国で安く売っていったら、それはその国の通貨が不当に安いので、いずれ上げてくるだろうと。最近では、マクドナルドのハンバーガーの価格で、通貨の心理的スプレッドを計るということがよく言われていますよね。私の場合は、過去の経験から金の価格を大いに参考にしています」(池田)。
市場のスケジュールに注目した「MITコントロール」
さて、ジャックハマー投資顧問のトレードシステム「MITコントロール」も、このような心理的スプレッドを応用していることは間違いないが、「申し訳ないんですが、ロジックは公開したくないんです。もっと言うと、あまりたくさんの方々に販売もしたくないんです」(池田)。システムを販売する場合、「できるだけ多くの人に使っていただきたい」というのが普通だが、池田氏は真逆のことを言う。ここが池田氏が投資家視点をもっている証左だ。
「システムのロジックは広まってしまうと、効果が薄れていくものなのです。例えば、日経225先物の寄付きは3,000枚くらいしか取引がない。そこに100枚、200枚の異質な取引があると、それだけで20円、30円変わってしまうのなんですね」(池田)。
優秀なトレードシステムは、毎日20円、30円ずつ小さな利益を上げて積み重ねていくもの。これが価格が20円、30円変わってしまうと、利益が飛んでしまうのだ。「私のシステムはロジックを非公開にしています。非公開にしたものは、効果がいまだに消えていません」(池田)。
しかし、それでも「MITコントロール」のロジックを少しだけも知りたい。
「うーん、困りましたね(笑)。ヒントだけ申し上げますと、市場というものには証券業界で決まったスケジュールというのがあるんですね」(池田)。1日のスケジュール、1週間のスケジュール、1月のスケジュール、1年間のスケジュールというものがある。
「給料日ってだいたい25日ですよね。すると翌日はレストランのお客が増えますよね。そういうスケジュールがあるんです。例えば、企業は自社株買いをしますね。これは企業によって毎月買う日が決まっているんですよ(笑)。売る日も決まっている。そういうことです。これ以上は勘弁してください。すでにMITコントロールを使っている方の利益を守る責任がありますから」(池田)。
言われてみれば、月末や期末にともなう動きなど、相場を左右するスケジュールというのがいくらでもありそうだ。
また、この「MITコントロール」は、「売り」のみしかしない。「買い」仕掛けはしない。「日本の市場は売りが基本なんですよ。それはある程度のベテランの人はみな知っていることです。ただ、どのタイミングで売るのかは企業秘密です」(池田)。売りと買いを交互に行っても、手数料がかかるのでなかなか利益が出ないのだという。
例えば、これは一例だ。日本の投資家は現物株を多く持っている。現物株を持っている投資家が最も恐れるのは、ニューヨーク市場の暴落だ。暴落が起きると、自分の持っている「株=財産」も目減りしてしまう。これが怖いがために、引け間際に日経225先物を売っておいてヘッジをしておく。万が一、ニューヨーク市場が暴落しても、先物で利益を上げられるようにだ。日本市場が閉じてしまう夜間、ニューヨークでなにが起きても大丈夫なように、このような安全策を講じておく。ところが、95%以上はニューヨーク市場でなにも起こらない。何も起らなかったら、翌日の寄付きで、売っておいた日経225先物を買い戻して決済する。「このために、日経225先物の寄り付き価格は、何十円か、本来あるべき価格より高くなるんです。ですから、日本市場では朝から売りが正解なんですね」(池田)。
ところで、前回紹介した池田氏のジャンケンの分析では「プライミング効果」と「サブリミナル効果」が主な必勝法だった。プライミング効果は、多くの人がいったんこうだと思い込むと、そこから逃れられなくなるというもの。池田氏は、このプライミング効果により生まれる心理的スプレッドを積極的に狙いにいっている。
「人より先に気づく」のが池田氏の基本
分かりやすく言えば、「ニューヨークが下がったんだから、日本も相当下がるだろう」という安直な思い込みのスキをついていく手法だ。では、もう一つの「サブリミナル効果」はどう利用しているのだろうか。「そこはまだシステムには生かしきれていませんが、大手の証券会社は使っていますね」(池田)という。
米国が発表する「住宅着工数」だとか「失業率」「クレジットカードの破産者数」などという指標は、以前はなかったという。
「当然、彼らはそのような指数が発表されることによって相場がどのように動くかを知っていて、先回りして有利なポジションを作っていることは間違いないでしょう。ジャンケンの手を出す前にパーをチラッと見せるようなものです」(池田)。
つまり、さまざまな経済指標が発表されてから、それを見てこうだから相場はこう動くなどと考えていては遅いのだ。来週こういう指標が発表される、こういう数値になるだろう、だとすると相場はこう動く、だから先に有利なポジションを作っておこうと考えるべきなのだ。「人より先に気づく」これが池田氏の基本だ。
先ほど触れたように、池田氏は自社のトレードシステムを大量販売しようとは考えていない。システムを販売して「はい、おしまい」ではなくて、利用者のアドバイザーとなって、セミナーや個人相談など、総合的にアドバイスしていき、その中でシステムを利用してもらいたいからだという。この姿勢こそ、投資家目線だと思う。
池田氏は投資の話を実に楽しそうに話す。話を聞いていていると、こちらまで楽しくなる。それは、池田氏自身が投資すること、投資のアドバイスをすることを楽しんでいるからにほかならない。楽しくて楽しくてしかたがない感じが伝わってくる。投資は趣味でも仕事でもない、"人生"だ。もちろん、利益が上がることは重要だが、それ以上に投資をして幸せな時間がすごせなければ意味がなくなる。ジャックハマー投資顧問のシステムを利用して、利益が上げられるかどうかは私には保証はできないし、保証することは法に触れる。しかし、「幸せな時間が送れる可能性はある」のではないだろうか。