業界では異色の"個人投資家"出身

ひまわり証券のTOPIX先物専用トレードシステム「MITコントロール」を開発したジャックハマー投資顧問の池田耕治代表は、極めて異色な存在だ。トレードシステムを開発する人の多くは、やはり証券業界出身者か、理系出身者で数理学や統計学を研究していた人のいずれかが多い。ところが、池田氏は大学卒業後、ベアリングを販売する会社の営業マンを7年間やっていた。その後、ラジコン模型の部品を販売する会社を起業した。

ジャックハマー投資顧問の池田耕治代表

2000年ごろから個人投資を始め、2002年に米国の投資家ラリー・ウィリアムズ氏の本を読み、「これからはシステムトレードだ」と目覚めたという。その後、猛烈に独学し、経営者の椅子を後進に譲り、本格的に投資顧問会社を立ちあげた。つまり、"個人投資家"出身の投資アドバイザーなのだ。そのため、投資家が勘違いしやすいポイントや、投資家特有の悩みなどを、まさに"投資家目線"で熟知しているといえる。

池田氏の投資アドバイザーとしての最大の強みは、証券業界の常識にとらわれていないことだろう。業界の中で教育を受けた人は、どうしても「常識」を身体で吸収してしまい、疑わない。そこが意外な落とし穴になっていることもある。しかし、池田氏は全てを、自分でも投資をして成功したり失敗したりを繰り返してきて学びとってきたため、このような「業界の常識」ですら、疑って検証してきているのだ。

池田氏の学び取り方を、もっともよく表しているのが「ジャックハマー ジャンケンシステム」の話だ。一見、投資とは関係のない雑談のようで、実は大いに関係があり、なおかつ、池田氏の市場の分析の仕方をよく表している。難しい話ではないので、肩の力を抜いて読んでいただきたい。

100人と対戦して98人にジャンケンで勝つ「博多のママ」

ある時、池田氏がテレビを観ていると、こんな女性を紹介していた。博多にあるスナックのママなのだが、このママがジャンケンにめっぽう強い。店のお客と、5回先に勝った方が勝ちというルールで対戦し、100人と対戦して98人に勝つのである。

池田氏は、その秘密はどこにあるのだろうかと考えた。何か秘密があるに違いない。早速、テレビ局に連絡を取ってみたが、映像や取材対象の個人情報は当然提供してもらえない。そこで、インターネットなどを駆使して、その番組に出演していた心理学者を探し当て、ビデオテープを分けてもらい、また心理学的な分析を教わることに成功した。すると、ママがジャンケンに勝つ秘密は、人間工学的な側面とサブリミナルな心理的側面を利用していることが分かってきたのだ。

まず、人間は、人間工学的に「グー」「チョキ」「パー」の順番で出すのが出しやすいのだという。だんだん指を開いていく順番が出しやすいのだ。一方、逆の順番であるパー、チョキ、グーはとてもやりづらい。実際にやってみると分かるが、後者の逆順の出し方では、確かになんとなく違和感がある。

つまり、相手が「グー」を出したら、次は「チョキ」を出す確率が高い。「チョキ」を出したら、次は「パー」を出す確率が高い。これは大脳生理学では「プライミング効果」と呼ばれているそうだ。一度、心地よいパターン行動をすると、知らず知らずそのパターン行動を繰り返してしまうのだという。結局、相手の手を見て、次はそれと同じ手を出せば、勝つ確率が格段に上がるのだ。

もちろん、これだけでは勝率98%は達成できない。そこで、池田氏はさらにビデオテープを検証した。すると、このママが手を出す前に、おかしな行動をしていることがわかった。手を出す直前に、腕全体を引く。これは自然な行動だ。しかし、このとき、たとえば「パー」を一瞬見せるのだ。こうすると、相手は「パー」に負ける「グー」は出しづらくなり、なおかつ「チョキ」を出そうとする傾向が高まる。サブリミナル効果だ。

まとめてみよう。最初の1回は普通にジャンケンをして、相手が「グー」を出したとする。相手の次の手は「チョキ」である確率が高いので、自分の出すべき手は「グー」だ。しかし、「グー」を出す前に、腕を引いたときに「チョキ」を見せて、それから「グー」を出す。相手は「チョキ」に負けるパーを避けようとするため、自然に出せる「チョキ」をますます出しやすくなるというわけだ。

「もちろん、スナックのお客さんですから、酔っているということもあるし、真剣にジャンケンに勝とうとしているわけではない。ママに勝った2人の行動をよく見ると、ママの手を見ずにジャンケンをしていました。サブリミナル効果が効かない2人だけが、ママに勝てたわけです」(池田)。

「裏をかく」手法をトレードに生かす

ジャンケンに勝つ方法を、自らのトレード手法にたとえる池田氏

なぜ、池田氏はこんなジャンケンの話をするのか。

「ジャンケンというと、確率とか運とかでみんな平等に勝つチャンスがあるゲームだというのが常識ですね。でも、そうではないんです。私のトレード手法はまさにこれなんです」(池田)。

池田氏のトレード手法は、悪い言葉かもしれないが「裏をかく」。より正確に言えば、多くの人が気づいていないことに、いち早く気づくというものだ。

そして、気づいたら徹底的に研究をして、気づきを勝つ手法にまとめあげていく。これが"池田流"のトレード手法だ。例えば、日本市場は多くの場合、朝高く、夜安くなっていく。これには理由があるが、なぜそうなのかまで突っ込んで考える人は少ない。池田氏はこの日本特有の市場の動きも、分析済みでトレードに生かしている。詳細は次回紹介したい。

池田氏はトレードシステム開発者というよりも、投資顧問といった方が正確だ。システムをただ販売するのではなく、投資全体のアドバイスをする中でトレードシステムも薦めていくというスタンスだ。そんな池田氏の「MITコントロール」はいったいどんなトレードシステムなのか。次回で紹介したい。