オールドゲーマーなら"ロード・ブリティッシュ(Lord British)"というキーワードに聞き覚えがあるだろう。そのロード・ブリティッシュことRichard Garriott氏が、新しいベンチャー企業を引っさげて宇宙空間からゲーム業界へと帰ってきた。新会社「Portalarium」の最初の作品はFacebook上で動作するブラウザゲームであり、ソーシャルメディアを中心に活動するものになるという。

Garriott氏はRPGの古典的名作「ウルティマ(Ultima)」シリーズと、MMORPGの先駆けとなった「ウルティマオンライン(Ultima Online)」の開発者として知られている。同氏の愛称であるロード・ブリティッシュとは、ウルティマ中に登場する自身を模したキャラクターのことである。当初、自身が開発していたウルティマはSierra Onlineなどのパブリッシャーを介して販売していたが、後に兄弟のRobert氏とともに設立したOrigin Systemで自らがゲームメーカー兼パブリッシャーとなっている。その後、Originはゲームパブリッシャー最大手のエレクトロニック・アーツ(Electronic Arts, EA)に1992年に買収されているが、EAとのトラブルを経験したRichard Garriott氏はEAを離脱し、ゲームメーカーのDestination Gamesを設立、韓国NCsoftとの提携でMMORPGのTabula Rasaなどを発表している。同氏は2008年末にNCsoftの離脱を発表し、2009年にはTabula Rasaのサービスも停止され、その去就に注目が集まっていた。

Potalariumのサイトで紹介されている設立メンバーの面々。左からCEO兼プレジデントのFred Schmidt氏、クリエイティブディレクターのRichard Garriott氏、技術ディレクターのStephen Nichols氏、会長で開発ディレクターのDallas Snell氏。なおGarriott氏の役職だが「Chief Rocket Scientist & Storyteller」とも書かれている

Potalariumの発表したプレスリリースによれば、同社の設立は2009年9月。設立メンバーはOriginならびにNCsoft時代のメンバーが中心となっている。なおPotalariumという社名だが、"入り口"を意味する「Portal」に対し、"場所"や"接続するデバイス"を意味する「-arium」という接尾語を組み合わせた造語となっている。当初ターゲットとするのはWebブラウザのプラグイン形式で動作するクロスプラットフォームなゲームの開発だが、Adobe Flashに限らず、さまざまなSNS上で利用できることを想定しているという。同社が開発したPortalarium Playerは現在Facebook上のWindows PCアプリとして限定ベータテストが実施されており、「Sweet @$! Poker」という名称のTexas Hold'emゲーム(ポーカーの一種)などが楽しめるという。すでにすべてのメジャーなWebブラウザでの動作を確認しており、今後はMySpaceなどのFacebook以外のSNSのほか、MacやiPhone、Androidなど複数のデバイスをカバーしていく計画だ。

さて、このRichard Garriott氏だが、最近もっとも話題となったのが宇宙旅行だ。同氏の父であるOwen Garriott氏はスペースシャトルなどのクルー経験があり、本職の宇宙飛行士であったことが知られている。Richard Garriott氏自身も宇宙に興味があり、ウルティマなどのゲームでもたびたびそうした願望にインスパイアされた設定を垣間見ることができる。同氏が拠点とする米テキサス州オースティンの地元紙によれば、ロシアに3,000万ドルを投資し、2008年10月にソユーズによる11日間の宇宙旅行を実現している。ソユーズで地球を離れた後は国際宇宙ステーション(ISS)に滞在しており、ISSを訪問した6番目の宇宙旅行者となったようだ。文字通り、宇宙から帰還したロード・ブリティッシュがゲーム業界に再び新天地を築いたといえるだろう。