第142回芥川賞・直木賞の選考委員会が14日、東京・築地の新喜楽で開かれた。芥川賞は、第121回(1999年上半期)以来10年半ぶりに「該当作なし」。直木賞は佐々木譲さんの『廃墟に乞う』(文藝春秋)と白石一文さんの『ほかならぬ人へ』(祥伝社)が選ばれた。
芥川賞の候補作品は、大森兄弟の『犬はいつも足元にいて』(文藝冬号)、羽田圭介さんの『ミート・ザ・ビート』(文學界十二月号)、藤代泉さんの『ボーダー&レス』(文藝冬号)、舞城王太郎さんの『ビッチマグネット』(新潮九月号)、松尾スズキさんの『老人賭博』(文學界八月号)の5作品だった。衝撃の結果となった理由について、選考委員会の代表として、池澤夏樹氏が説明した。
選考過程では、1回目の投票において、『犬はいつも足元にいて』と『ミート・ザ・ビート』が落選。残った3作品に関しても、以後2回の投票では、「投票するたびに誰の(作品の)票も減っていった」とし、「(支持する作品への各委員の)応援演説が効果がなく、足の引っ張り合い」(池澤氏)のような状況となり、最終的には1つの作品が抜きん出ることなく「これは駄目だ」(同氏)という結論となったという。
最終的に「該当作なし」という結果となったことについて、池澤氏は、「小説というのは作者が何かを偏愛するものだが、5作品全部で、どうしてもという愛が感じられなかった」ことが、全作品に共通する落選の理由と説明。「小説を書くということ(そのもの)が前提となって、気の抜けた感じ」が全作品にあったとも述べた。
個々の作品については、大森兄弟の『犬はいつも足元にいて』について、「全体として平板であり、無理に奇策を弄している」ことが落選の理由と説明。また、2人で1つの作品を書くことに関し、「こういうケースは対象とすべきではないという意見があった」と明かし、「純文学でどう受け取るべきか、議論になったが結論は出なかった」と話した。
藤代泉さんの『ボーダー&レス』については、「新しい今の時代の在日(朝鮮人・韓国人)を扱った小説として評価すべきとの意見もあったが、それにしてはリアリティがない、登場人物がさわやかすぎるとの反対意見があった」と述べた。『老人賭博』に関しては、「安心して読めてすきがない。直木賞でもいいとの声もあった」としながら、「1つの欠点として、ある弱者の失敗を皆で笑うタイプの小説」になっていると述べた。
舞城王太郎さんの『ビッチマグネット』については、池澤氏自身が「姉が弟と一緒に育っていくことで成長する」姿を描いていることについて評価したものの、賛成意見を述べた委員からも「このタイトルはどうしても嫌」という意見があったと述べた。
池澤氏は記者会見の最後に「これ(該当なしという結論)をもって日本の文学が不調であるという結論にはならない」とし、「たまたま9名の選考委員でこういう結果となった」「意味の深い解釈はしないほうがいい」と述べ、今回の結果が日本の純文学にとって長期的に見て意味があることはないと述べた。