日本銀行は2009年12月21日・22日・24日・25日の4日間、市民講座を中心にした催し「日本銀行へようこそ~日銀を紹介する夕べ~」を東京都中央区の日本銀行本店で開催した。開催初日の21日には、「にちぎん入門」と題し、日本銀行情報サービス局長の河野圭志氏が日銀の役割について講演した。
日銀は「認可法人」、日銀職員は「公務員ではない」
講演の冒頭で河野氏は、講演の目的について、(1)日銀が何をやっているのか、そのアウトラインを紹介、(2)日銀に関する疑問に答える、の2点にあるとした上で、「日銀に入行して今年で29年になるが、準備をする中で大変勉強になった」と振り返った。
講演では最初に、「日本銀行の自己紹介」とし、「日本銀行が日本の中央銀行である」、「日銀が存在する根拠は日本銀行法(日銀法)にある」、「日本銀行は日本銀行法に基づき政府が認可した『認可法人』である」の3点を強調。さらに、日本銀行が役所ではなく、日銀の職員も公務員ではないものの、公共性の高い職務であり、高い倫理感が求められることも紹介された。
日銀の存在根拠である日銀法第1条には、日銀の目的が示されている。日銀の目的は、(1)銀行券を発行すること、(2)物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること、(3)決済システムの円滑かつ安定的な運行を確保し、金融システムの安定に資すること―となっている。(1)に関し、日本銀行券は日銀が発行するが、硬貨は発行しないこと、硬貨はある一定量を超えれば受け取りを拒否できるが、日本銀行券であるお札は、受け取りを拒否できない「強制通用力」があることなどが説明された。(2)はいわゆる「金融政策」であり、通貨の量を調節することで、物と通貨の相対関係を調整するものとなっている。
これらの目的を達成するため、日本銀行は、お札を発行する「発券銀行」、民間銀行に資金を供給する「銀行の銀行」、政府の金庫番の役割を果たす「政府の銀行」という3つの業務を行っている。
供給する資金量の調節によって「金融政策」を実行
日本銀行は明治15年(1882年)に開業、職員数は4,766人(2009年3月末時点)、支店は32支店ある。開業時期は、「意外にも、主要国で遅いほうではない」(河野氏)。
日本銀行の最高意思決定機関は、「日本銀行政策委員会」で、金融政策の運営に関する事項を決定するとともに、日本銀行の運営方針を決定し、執行状況を監督する。同委員会の構成は、総裁1人、副総裁2人、審議委員6人の計9人だが、現在は、審議委員が2人欠員しており、計7人となっている。国会の同意を得て内閣により任命され、任期は5年。「一般の企業で言えば、役員会に相当する」(河野氏)組織となっている。
政策委員会は、多数決により、金融政策の運営方針を決定する「金融政策決定会合」を、毎月1~2回、通常2日間開催する。財務大臣や経済財政担当大臣、その代理が政府代表として出席するが、政策の議決権はない。政策の決定内容は、金融政策決定会合終了後、直ちに公表され、会合終了日中に、総裁が記者会見を行うようになっている。会合終了後にすぐに中央銀行トップが会見する国は多くないといい、「我が国の特徴」(河野氏)だという。
政策委員会では、金融政策決定会合のほか、火曜と金曜の週2回、「通常会合」も開かれる。これも多数決の原則で、金融政策以外の日本銀行業務の重要事項について議論・決定される。
政策委員会が決定する金融政策については、従来は、いわゆる「公定歩合」(日銀が金融機関に貸し出しを行う際に適用する金利)が用いられてきた。だが、これは、金利の自由化が進む前の「規制金利時代」(河野氏)の手法であり、現在は、金利を決めるのではなく、短期金利(「無担保コールレート(オーバーナイト物)」)(※1)の誘導目標を定め、供給する資金の量を調整するオペレーション(公開市場操作)によって、その実現を図る。つまり、「金利を決めるのはマーケットに任せる」(河野氏)方法がとられている。
※1 「無担保コールレート(オーバーナイト物)」とは、民間金融機関が互いに資金の貸し借りをするコール市場で取引される金利。オーバーナイト物とは、当日借りて、翌営業日には返す、極めて短期間の貸借取引を指す
例えば、金融政策決定の例として、2009年12月18日の金融政策決定会合では、次回の会合までの間「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.1%前後で推移するように促す」とする決定がなされている。
「決済システム」の円滑な運行が重要な役割の一つ
金融政策と並んで、日本銀行の重要な役割の一つが「発券銀行」としての役割。2008年末の日銀券の流通高は86兆円、このうち家計・企業などの保有高は75兆円、金融機関の保有高は11兆円。また、2008年中に金融機関から日銀が日銀券を受け入れた受入高は約108億枚(約65兆円)、支払高は約108億枚(約65兆円)だった。
銀行券の平均寿命は、五千円札/千円札は1~2年程度、一万円札は4~5年程度となっている。五千円札/千円札と一万円札の寿命の違いについて河野氏は、「紙の質が違うわけではなく、流通の頻度が違うことによる」と説明。つまり、一万円札より、五千円札/千円札のほうがよく使われるのが原因となっている。
また、いわゆる「通貨」は、お札や硬貨などの現金だけではなく、普通預金・当座預金などの「流動性預金」や「定期預金」などから成り立っているが、このうち現金が占める割合は、2009年11月末時点で7%であり、その占める割合は低い。
また日銀には、「決済システムの円滑かつ安定的な運行を確保し、金融システムの安定に資する」という目的がある。例えば通信販売などで、「企業・Y」が「個人・X」に商品を販売し、個人・Xが企業・Yに金融機関を通じて代金を支払う場合、Xの預金口座がある「A銀行」からYの預金口座がある「B銀行」に代金を送金するには、日本中の金融機関が参加している「全国銀行データ通信システム」を通じた決済が行われる。
この場合、A銀行が日本銀行に持つ当座預金口座に代金を入金すると、B銀行が日本銀行に持つ当座預金口座に日銀が振替を行い、B銀行はこれを引き出してYの預金口座に入金する仕組みとなっている。河野氏は、「このシステムを円滑に運行することが日銀の使命である」と説明、日銀はこのシステムの安定を確保し、「システミックリスク」(※2)を未然に防ぐ役割があると強調した。
※2 「システミックリスク」とは、一部の金融機関の支払いの滞りが、その資金を当てにしていた金融機関にも波及することで、金融システム全体に支払不能が連鎖していく危険のこと
日銀はこのために、金融機関に対する検査である「考査」、「最後の貸し手」としての資金供給などの対策を実施している。
講演は一見分かりにくい日本銀行の役割・業務を非常に分かりやすく解説したもので、日本銀行に関する"謎"が解ける内容だった。講演の最後にはQ&Aの時間も設けられ、日銀が日銀法に定められていない業務を行ってはいけないことから、両替はできないことなどが説明され、参加した68人の聴衆は熱心に聞き入っていた。