さて、今回はビオのサンプルケースとして、これまでに特に詳しく紹介してきたフランス白ワインの代表格であるシャブリを取り上げる。

シャブリ地方のビオ事情、実は結論から言ってしまえばフランス国内としてはまだまだ先進とはいえないであろう。ビオは栽培が比較的容易でブドウが完熟しやすい温暖な気候のほうが楽だと、後述するロマン・ブシャール氏はいう。現にフランスのビオを実践しているブドウ農家の2/3は、南部のラングドック・ルーション、プロヴァンス・アルプ・コート・ダジュールと南西部のアキテーヌ(ボルドーも含む)で占められている(「アジャンス・ビオ」統計より)。

とはいえブルゴーニュは、ヴォーヌ・ロマネに本拠を置くドメーヌ・ルロワをはじめ、優秀なビオ生産者が顔を揃えている地域である。同じブルゴーニュでもシャブリが出遅れたのは、ブルゴーニュの他の地域からやや孤立した場所にあること、さらには他のブルゴーニュ地域より北に位置する、つまり冷涼な気候ゆえブドウが熟しづらく、ビオに転換するにはリスクが大きいと考える生産者が多数いるからという点が理由として想像できる。それでも近年は、世代交代などから少しずつではあるが、ビオに転換する造り手も増えてきた。ここからは、実際にビオを実践している造り手を紹介していく。

2010年にはエコセールからの認定も

ドメーヌ・パスカル・ブシャール / ドメーヌ・ド・ラ・ショウムの場合

ドメーヌ・パスカル・ブシャール

迎えてくれたのは、当主パスカル・ブシャール氏の息子であるロマン・ブシャール氏。母方の祖父の時代にはブドウをネゴシアンに売っていたが、パスカル氏の時代になって醸造まで手がけるようになり、現在は33haのAOCシャブリの畑を所有している。ロマン氏自身は2000年から参画した。

ロマン・ブシャール氏

おもしろいのは、ロマン氏はパスカル・ブシャールの人間でありながら、個人で別のドメーヌ「ドメーヌ・ド・ラ・ショウム」も所有している。2005年、ブドウ栽培を廃業する人物から畑を買い取り、ディジョンで醸造技術は学んだが栽培は独学であるがゆえか、経験者なら迷いや躊躇という言葉がよぎるはずの「ビオロジックに変換」という大事を、彼は何の迷いもなく即決した。

幸い畑の状態は悪くなかったので、ブドウの樹はそのまま使い、あとは徹底的に農薬を排除、化学肥料も与えずビオの畑を作り上げていった。除葉や鋤入れなど細かい手作業もあったが、その甲斐あって2007年には認証団体エコセールへの申請も果たし、2010年には認定される見込みである。

ステンレスタンクもずらりと並ぶ。地下のカーヴには、150個の樽が

申請してから認定されるまでに、およそ3年かかる。しかし、認証されるのが来年だからといってそれまでに造られたヴィンテージのワインがビオではないかというとそんなことはない。

転換中の彼の畑から造る「ル・グラン・ヴォア 2007」(シャブリ)、「ヴォー・ド・ベイ 2007」(プルミエ・クリュ)を試飲したところ、シャブリ特有のミネラル感はもとより、シャルドネというブドウの品種自体の味がよりクリアに表れているように思えた。なお、これまでリュット・リゾネ(減農薬農法)だったパスカル・ブシャール社の33haの畑も2007年より徐々にビオへと変換しておりで、今年中にはエコセールに申請するべく準備を進めている。

最後に、ビオを実践するに当たり必要なことをロマン氏に聞いてみた。

「まずは情熱ありき。技術を把握して醸造施設を整え、従業員の意識を高める、そしてリスクを背負う覚悟が必要」。

手をかけるほどに結果につながるというロマン氏、今後のワインが楽しみである。

順次ビオへと変換中。今後のワインが楽しみである