「忍びの世界には、何人も侵すことの できない掟がある。それを破る者には、ただ死あるのみ……」このシビれるナレーションで始まるアニメ『忍風カムイ外伝』が実写映画化された。元は白土三平の マンガなんだけど、オイラにとってはやっぱりテレビアニメのインパクトが強い。天才的な忍者であるカムイが抜け忍となり、毎回襲ってくる追っ手と戦うとい うのが基本ストーリーだが、忍者モノというより「残虐モノ」と呼んだほうがいい作品だ。凄惨な殺し、再起不能になる人間、今じゃ地上波で絶対放送できない 差別表現の連続と、トラウマになりそうな要素のてんこ盛り。とくに「ここまでやるか!?」という衝撃の最終回は今でも夢に見そうなくらい。こんなモノが普 通にテレビ放送されてた40年前って良い時代だなあ……。

9月19日公開の『カムイ外伝』

あ、このままじゃアニメの話で終わってしまいそうだ。今回の映画はそのアニメ版 の最終エピソード「スガルの島」がベースになっている。それだけで期待しちゃう反面、えらくハードル高いのに挑戦したなあという感も強い。そんなチャレン ジャーは何処のドナタなのかと思ったら、監督、脚本はなんと崔洋一! この手のアニメ原作モノを撮る人だとは思わなかった。そして共同脚本は宮藤官九郎!? ええーっ? 救いのないストーリーにあのギャグは合わないでしょ!? それにオイラ個人的にクドカンのセリフ回し苦手なのよ。というわけで、観る前はかなーり不安な気持ちだったが、実際観てみたらセリフはフツーだった。オイ ラとしてはひと安心だが、あれでわざわざクドカンを起用した意味あるのか!?

カムイは松山ケンイチ

さて、主人公のカムイを演じるのは松山ケンイチ。マンガの キャラ役ばっかりやってる印象だけど、こういうアクション系は初めてじゃないかな。相当練習したみたいで、斬り合いのシーンは特撮の助けもあって思ったよ り良い動きしてる。ただもうちょっと体絞ってほしかった。あの肉付きじゃ、毎日ギリギリで生き抜いてる感が薄いよ。もう一人の重要人物、抜け忍スガル役は 小雪。スゴ腕のくの一という役どころだが、この映画では一番ハマってると思う。とくに睨み顔が最高。あの顔で睨まれると「はい、ビ●ラ買います」って言って しまいそう……。ちなみにくの一といっても、胸や股間からいろいろ発射したりはしませんので、そちら系のサービスを期待している方はあしからず。

さすがの目力

そしてカムイに恋するスガルの娘サヤカに大後寿々花。松山ケンイチと大後寿々花といえば、ドラマ「セクシーボイスアンドロボ」の「小学生とオタクコンビ」 イメージが強いけど、今度は恋人役かと思うと感慨深いね。スガルの夫でサヤカの父親の半兵衛役は小林薫。この半兵衛もタダ者じゃない役どころだが、さすが にうまく大物感を醸し出している。また、物語後半の重要人物として出てくるのが鮫ハンターの不動。伊藤英明が演じてるんだけど、こちらは迫力不足感が否め ない。もっとマッチョ系の人いなかったのかねえ。

ちょっと優男すぎるか

この映画の大きな見どころは、やはり忍者どうしの戦闘シーン。カムイの必殺技は2つ あって、1つは平地での斬り合いで使う変移抜刀霞斬り、そしてもう1つは森林での格闘戦用の飯綱(いづな)落としだが、さすが21世紀の特撮技術の勝利。 どちらも迫力ある必殺シーンとなっている。とくに「霞切り」をどう表現するかと思ったら、なんとカムイを量子化させた!「これが純粋種の力か?」とイノベ イターも唸るくらいの実力だ(笑)。冒頭の戦闘シーンでは原作の別のエピソードも少し織り交ぜるなど、予備知識のない人にもすんなり話に入っていけるよう になってるし、見せ方もうまいね。

半兵衛の家でのカムイは笑みをこぼすことも

そしてアニメ版を知る者にとって一番の関心は、あの衝撃のクライマックスをどう描くのか? というところだが、こちらは観てのお楽しみ。ただ、オイラとしては「惜しい! もう一歩」と言いたい。原作のストーリーを結構尊重して作ってるんだから、最 後ももう一歩踏み込んでほしかった。

惜しいといえば、佐藤浩市と土屋アンナがゲスト扱い(?) で出演してるんだけど、もうちょっと活躍させても良かったんじゃないかな。とくに佐藤浩市はタダのバカ殿役でまったくヒネリがなかったのが非常に惜しい。 ほかにもいろいろと伏線になりそうなネタがあるのに、原作を尊重するあまりなのか、このあたりはあえて抑えた展開になっているみたい。どうせならもっとブ チ切れたキャラを作れば良かったのに。他が良い出来なだけにいろんな意味で惜しい作品だ。

『カムイ外伝』は9月19日(土)より全国ロードショー

(C)2009 「カムイ外伝」製作委員会