8月22日より、映画『ホッタラケの島~遥と魔法の鏡~』の公開がスタートした。フジテレビ開局50周年記念作品として、フジテレビジョンとプロダクションI.Gがタッグを組み、日本ならではの3DCGアニメ映画として、約3年という制作期間をかけた本作は、ファミリー向けとはいえ、独特の世界観など非常に見どころの多いものとなっている。すでに子どもたちへのアピールは各所でなされているが、今回はお父さん層やアニメファンに向けた切り口から本作を紹介してみたい。

主人公は女子高生の遥。卵を供えるときつねが失せ物を見つけてくれる言い伝えのある神社で、遥は不思議な生き物と出会う

幼かったころの遥が宝物にしていたのが、母親からもらった手鏡。ところがいつの間にか遥は手鏡をホッタラケにしてしまい……

■『ホッタラケの島~遥と魔法の鏡~』ストーリー概要
遥は、普通の高校生。幼い頃母親を亡くし、父親に育てられた凛とした少女です。その遥が、武蔵野にある神社を訪れたときから物語が始まります。子供の頃遊んでいた神社に行くと、捨てられたゴム式のおもちゃの飛行機を運んでいる“きつね”を目撃します。きつねを追っていくうちに、森の中に迷い込んだ遥。不思議な水たまりを見つけ、その生暖かい水に手を入れると……一瞬にして不思議にした世界に吸い込まれ、「ホッタラケの島」に入ってしまいます。そこは人間たちが「ほったらかしにした=ホッタラケにした」ものでできた島でした。

物語は『おむすびころりん』『不思議の国のアリス』といった例を挙げるまでもなく、主人公がふとしたきっかけで異世界に迷い込んでしまうというオーソドックスな冒険譚。当然その異世界の魅力が、映画全体の魅力と直結するため、遥が迷い込む「ホッタラケの島」の造形には非常に力が入れられている。島はホーロー看板や古新聞、アナログレコードなど、昭和チックなガラクタが積み重なっており、ゴミの山と宝の山が渾然一体となった一種異様な趣。ただ単に「おもちゃ箱をひっくり返した感じ」ではなく、楽しげでにぎやかな裏側に、懐かしさや、捨てられた品々の哀愁を沿わせることで、島の存在感に厚みを持たせているのが面白い。おまけ的に『めざましテレビ』のめざまし君や『ウゴウゴルーガ』のみかん星人なども背景に埋もれているので、探してみるのも楽しみのひとつだ。

きつねのような生き物を追いかけて遥がたどり着いたのはホッタラケの島。そこは人間たちがほったらかしにした品々で作られていた

ホッタラケの島に住むテオ(左)の協力で母親の手鏡を探す遥(右)。遥が人間だとバレてはまずいので、ハリボテをかぶって変装

そのホッタラケの島で遥が出会う住人も、モデルはいちおうきつね……ではあるのだが、粘土モデラーの石森連氏らによって生み出されたデザインは温かみのあるもので、ホッタラケの島の猥雑さと合わせて、どことなく80年代の海外製ファンタジー映画のような雰囲気を漂わせている。往年の『ダーククリスタル』や『ネバーエンディング・ストーリー』、また『スター・ウォーズ』シリーズの雑多な街のシーンなどを和風にした感じ、とでも例えればいいだろうか。CGがほとんどなかった時代のファンタジー映画のアナログな面影を、現代のデジタル技術でパッチワーク的に織り上げ、新たな異世界へと仕立て直した本作は、人間の思い出の欠片を積み上げて作られた、ホッタラケの島と二重写しになって見える。

スタッフ陣に目を移してみると、この映画のために各分野から集められたというだけあって、こちらもかなり豪華な編成。監督は『修羅雪姫』『砂時計』などの実写作品から、人気ゲーム『真・三國無双』シリーズのオープニングムービーまで幅広く手がける佐藤信介氏。脚本は佐藤監督のほかに、若手人気作家の乙一氏(『GOTH』シリーズなど)が、安達寛高名義で手がけた。

映像制作の中核は、プロダクションI.Gの3DCGスタジオ、IGFXスタジオとポリゴン・ピクチュアズ(『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』など)が共同で担い、おもにキャラクターを動かすアニメーションをIGFXスタジオが、ライティング(照明)やコンポジット(合成)をポリゴン・ピクチュアズが担当。そのほかにもダンデライオン アニメーションスタジオ、東映アニメーション、ジーニーズ アニメーションスタジオ、ルーデンスといった、名うてのCGスタジオが多数参加している。CG監督はポリゴン・ピクチュアズの長崎高士氏。

遥が小さいころお気に入りだったぬいぐるみのコットン。遥はホッタラケの島で忘れていたコットンと再会する

遥の手鏡を執拗に狙うホッタラケの島の暴君、男爵。島の住人であるテオたちとは似ても似つかない姿だが……

キャストについては、現実世界の人物の声を実写作品の役者陣が担当し、逆にホッタラケの島の住人の声は声優陣が担当するという振り分けがなされた。具体的には、主人公の遥役には綾瀬はるか(『おっぱいバレー』の寺嶋美香子役など)、遥の母役に戸田菜穂(『ショムニ』シリーズの杉田美園役など)、遥の父役に大森南朋(テレビドラマ版『ハゲタカ』の鷲津政彦役など)らが顔を揃えた。一方、遥と旅するテオ役に沢城みゆき(『ローゼンメイデン』シリーズの真紅役など)、不気味な強敵の男爵役に家弓家正(『未来少年コナン』のレプカ役など)といった実力派の面々が参加。収録はセリフを先に録るプレスコ方式で行われたこともあり、アニメのセリフ回しの経験が少ない役者陣の演技にも、大きな違和感は感じることはない。

日本の最新3DCG技術を惜しみなく投入しつつも、どこか懐かしい空気に満ちた見どころ満載の本作。スピーディーなアクションや、泣かせてくれる部分も盛り込まれ、全体的にも大きな歪みのない、優等生的な作品に仕上がっている。大人の目線から振り返ると、思い出の宝物と捨てられたゴミ、その両面の狭間でゆらぐ、ホッタラケの島の負の部分をもう少し掘り下げてほしい感は残ったが、そうした苦味はあくまでも隠し味的に抑えられている印象だ。「アニメーションの一番の観客は子どもたち」という原点を忠実に守って3DCGで作り上げられた現代のおとぎ話。子どもたちの夏休みはそろそろ終わりが見えてきたが、その前にぜひ見ておきたい1本だ。

完成披露試写会は子どもたちを交えてにぎやかに行われた。中央左から佐藤信介監督、沢城みゆき、綾瀬はるか、戸田菜穂、大森南朋

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