デジタルカメラの普及に押され、フィルム式カメラの需要は減少しつつあるが、そんな時代にあっても、トイカメラは根強い人気を誇っている。トイカメラが人をひきつける魅力とは何なのか。ロモ(ロシアのカメラメーカー)のアナログカメラやトイカメラを扱っているロモグラフィー・ジャパンの代表 浪上大輔氏と、トイカメラの輸入・企画・販売を手がけるフーヴィの代表・宮武博之氏に、トイカメラの魅力についてうかがった。
伝説のトイカメラ「Diana」
「トイカメラ」とは、本体やレンズ等、カメラを構成する部品のほとんどがプラスチックで作られたカメラのこと。価格も安価なものが多く、その呼び名からも玩具的な印象を受けるが、「"トイカメラ"という呼称は、最近になって生まれたものです。"トイ"と言っても、光学効果の独特さが芸術的に高く評価され、プロに愛好されているものもあるんです」(ロモグラフィー・ジャパン代表 浪上大輔氏)という。
様々なトイカメラ。"トイカメラ"とは、構成部品のほとんどがプラスチックで作られたカメラのこと。素材のチープ感や呼称から玩具的な印象を受けやすいが、独特な光学効果が高く評価され、プロに愛好されているものもあるという |
浪上氏によると、トイカメラの元祖と言われているのは、1960年代~1970代に香港の工場で生産していたとされる「Diana(ダイアナ)」。「トイカメラの元祖」とはいっても、元々は"トイ"ではなく、大衆へのカメラの普及を目的として、安価な素材を用いて低価格化を図ったものなのだという。120mmのプラスチックカメラで、当時は1ドル程度のコストで生産されていたとのこと。2段階のシャッタースピード、3段階の絞り、1mから無限のマニュアル・フォーカスなどの機能を備えていたそうだ。
Dianaには光の漏れが発生したりレンズに歪みがあるなど、設計上の欠陥があり、ピンボケ写真になることが多かったり、ケラレ等が発生していたという。しかし、欠陥やチープなレンズは「陰影や光の屈折を生み、ソフトで幻想的なイメージや現実とかけはなれた写真が撮影できます」(浪上氏)。ポップアートの隆盛期であった当時、これらの欠陥はアヴァンギャルドでローテク好きなフォトグラファーたちに好意的に受け入れられ、カルト的な人気を博すことになったとのこと。今では、Dianaのケラレは「トンネルエフェクト」と呼ばれるようになり、ロモ製のカメラを代表する効果となっている。
しかしながら、Dianaは1970年代中期ごろに、35mmフィルムカメラや126mmインスタマチックカメラの台頭により、販売に翳りが見え始め、生産も終了されてしまったという。ただし、「生産終了後も、クリエイティブツールとしてDianaは根強く支持を受け続け、中古カメラ屋などで広く出回っていました。そして、2006年に、多くの関係者の努力によって、『Diana+』として復活することになりました」。Diana+は、オリジナルのDianaの機能に加えて、ピンホールショットとパノラマ撮影の機能も備えている。また、12枚撮影のフルフレームショットと、スモールフレームをつけて撮影する16枚撮影といった2種類の写真サイズが選択できる。さらに、60年代風のクラシカルなフラッシュが付いた「Diana F+」も販売されている。
そのほかレンズなどのオプションパーツが豊富に用意されており、インスタントフィルムでの印刷が可能となるアイテムもある。カラーなどのバリエーションも豊富で、オリジナルは8機種のみだったが、現在は130機種ほどあるとのこと。「デザインもクラシカルで、雑貨的な魅力もあるので、コレクターにも人気があるようですね」(浪上氏)。