プロレタリア文学の代表作として知られる小林多喜二原作を映画化した『蟹工船』の特別試写会が12日、東京・白金台の明治学院大学で開催され、トークショーにSABU監督、作家で同大学の高橋源一郎教授らが出席した。
劣悪な環境で働く労働者たちの闘争を描き、昨今の経済情勢ともマッチしてブームを巻き起こした『蟹工船』だが、SABU監督はオファーを受けるまで同作を読んだことがなかったという。「最初にタイトルを聞いて、『今度は蟹が光線を出すコメディを作るのか』と思いました(笑)」と語り、会場の笑いを誘った。
映画化にあたっては、原作にはないシーンも盛り込まれている。映画を見た高橋氏が、「途中の"首吊りシーン"は衝撃的でした」と話すと、監督が、「笑ってはいけないシーンでお客さんを笑かすのが好きなんですよ。それとあのシーンは、労働者たちが団結する過程での伏線のようなものです」と説明。映画の出来には非常に満足しているようで、「小林多喜二がこの映画を見たら、『俺はこういうことを主張したかったんだ!』と言うと思いますよ」と胸を張った。
「俺が撮ったのは“走る映画”が多かったけど、今回はスタッフがすごく走っていた気がします。カットがかかるたびに(スタッフをねぎらう)拍手が起きていました」とSABU監督 |
高橋氏は、「映画『蟹工船』は原作と別物。そうじゃないと映画化する意味がないんです。80年前の労働争議を映像にするため、ここまで加工する必要があったと思います」と評価 |
高橋氏から「(撮影で使用された)蟹は食べたんですか?」と聞かれると、「俺は蟹が無理なんで……」とカミングアウト。「蟹アレルギーなんですか!?」と驚く高橋氏に、「3年くらい前から。本当は"ウニ工船"とかだったらよかったんですけどね。ウニ大好きなんで(笑)」。この発言に会場も爆笑に包まれた。
船上で蟹の缶詰を加工する蟹工船で、新庄(松田龍平)ら出稼ぎ労働者は、鬼監督・浅川(西島秀俊)のもとで酷使されていた。そんな中、新庄は、「自分達が変わらなければ何も変わらない」と提起し、浅川に立ち向かう―― |
試写会を見た学生からは、「この映画には、現代社会に対してどんなメッセージが込められていますか?」との質問が。企画プロデューサーの豆岡氏が、「劇中、新庄(松田龍平)も言った『もう一度立ち上がれ!』に尽きます。皆さんが直面しているいろいろな問題に対して、刺さる言葉になったらと思っています」と答えると、「いいこと言うなあ」と監督。「『蟹工船』は著作権がフリーなんで、撮影中はずっと、『早く撮ってくれ』と言われましたから(笑)」と"本音トーク"を展開する監督に、プロデューサーも思わず苦笑いだった。
映画『蟹工船』は、7月4日よりシネマライズ、テアトル新宿ほか全国ロードショー。