日本の喫茶店・カフェ史をふりかえる

日本に「スターバックス コーヒー」が上陸したのは1996年。そこから急速に日本のカフェ文化は進化を遂げる。1970年過ぎに巻き起こった専門店ブーム、1990年前のネルドリップブームなど、これまでのブームはいずれも"喫茶店"のものだった。しかしスターバックス上陸、1997年に東京・駒沢にオープンしたカフェ「バワリーキッチン」などが影響し、"カフェ"という言葉が一気に浸透。雨後の竹の子のようにカフェの新店が続々とオープンしていった。

その頃のカフェといえば、「おしゃれでソファとかあって、カフェラテ出してる感じ? 」といったイメージだっただろう。しかし、ブーム期に開業したカフェは閉店に追い込まれるケースも少なくなかった。ブームに乗って様々な業態のカフェが誕生したあとは自然淘汰され、その後は原点回帰とも思える現象が起き始める。カフェになくてはならないコーヒーを見直す店が増えていったのだ。

マシンを使うエスプレッソだけではなく、ペーパーやネルで抽出するドリップコーヒーなど、コーヒー全体が注目を浴びるようになってきた。"コーヒーを抽出する人=バリスタ"という言葉も一般化し始め、コーヒー豆自体に目が行くようになってきた。

少々話がそれてしまったが、このようにしてこだわりを持つ人々がたどり着いた豆、それがスペシャルティコーヒーなのである。スペシャルティコーヒーを珍重するのは、日本だけの話だけではない。この傾向は世界に広がりつつある。

若いカフェ経営者の中にも、「カフェですから。コーヒーにこだわって当然です」とストイックなまでにこだわる人も多い

農家を支える「カップ・オブ・エクセレンス」の称号

そして、このスペシャルティコーヒーと深い関係にあるのが「カップ・オブ・エクセレンス」というコーヒー品評会。ブラジルでスタートしたこの品評会において、最高級の豆に与えられる称号が「カップ・オブ・エクセレンス」である。この価値ある称号が与えられたコーヒー豆には、オークションで高値がつけられる。

生産者は、「カップ・オブ・エクセレンス」の称号が得られ、オークションでつけられた高値によって報酬も受け取ることができる。さらに、農園の名も広く知れ渡ることとなる。「カップ・オブ・エクセレンス」は、生産者にとっての活力となっている。

ABICは、2010年までのブラジルコーヒーの輸出増大を目指し、世界で合計約10億円の出資を行っている。ナッタン・ヘルスコヴィックスさんに聞くと、「輸出増大は、単に"輸出量"のことを指しているだけではありません。スペシャルティコーヒーのような高品質の豆の輸出にも尽力し、"輸出額"の面でも底上げを図っていきたいと考えています」とのことだ。

ブラジル国内では、いまがカフェブーム

さらには、「生豆だけではなく、焙煎を済ませたコーヒー豆の輸出にも力を入れていきたい」という。すでにローストビーンズの日本への輸出は始まっており、日本向けのパッケージやブレンドの開発にも取り掛かっているという話。生豆の輸出量を維持しつつ、よりバラエティ感のあるコーヒー関連商品の輸出を図っていきたいという考えなのだ。

西友で購入可能なブラジル産フェアトレードコーヒー。浅煎り、中煎り、深煎りの3種類があり、価格は各498円 / 200g

ブラジルは、ペット容器入りの豆の輸出も行っている。焙煎後の香りをキープできる容器なのだとか

ABICのミッションとしては、これまで説明してきたように輸出増大と同時にコーヒー豆のクオリティアップ、さらにはブラジル国内における消費者・バリスタの教育も挙げられるという。すでにブラジルの州ごとにコーヒー教室を開催してきており、主婦層を中心に好評だそう。

ブラジルには、2年ほど前に「スターバックス コーヒー」が上陸。現在では約20店舗が展開しているとのことだ。これにより、10年ほど前の日本と同様、その他のカフェも増加中で、今ではブラジル国内に3,000店以上があるという。

カフェが増えるということは、バリスタの技術も向上もうながす。バリスタの技術を競う世界大会「ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ」では、これまではコーヒー原産国の成績はそれほどよいものではなかった。しかし2007年の大会ではブラジル代表が決勝戦に進出するなど、好成績を残している。

2007年開催の「ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ」で決勝に進出し、6位となったブラジル代表のSilvia Magalhaesバリスタ (撮影: 中村浩二)

バリスタの技術が向上し、消費者の舌も肥えていけば、コーヒーに対する目も自然と厳しくなっていく。ABICの取り組みとブラジルにおけるコーヒー文化の成熟により、日本にとってうれしい結果、つまりはこれまで以上においしいコーヒーをいただけることになるのではないだろうか。