2月8日。ロサンゼルスは曇り。この日、アメリカ最大の音楽の祭典、グラミー賞受賞式が、ロサンゼルス・ダウンタウンのステープルズ・センターで行われた。ロサンゼルス・ダウンタウンというと、数年前までは、危なくて怖いという印象の場所だったが、最近再開発が進み、活気にあふれる安全な街にシフトしつつある。特にグラミー賞受賞式の会場であるステープルズ・センター隣には、ノキアシアター、ESPN ZONE 、グラミーミュージアムなどを持つ大型複合施設LA LIVEが建設された。2008年12月に、ほとんどの施設が完成し、受賞式当日もショーを観覧する人や観光客が行きかっていた。

グラミー賞が行われたステープルズ・センター

110ものカテゴリーがあるグラミー賞

日本でもアメリカでも、グラミー賞受賞の報道というと、最優秀レコード賞、最優秀アルバム賞、最優秀楽曲賞、最優秀新人賞の主要4部門のみ取り上げられることがほとんどだが、実はグラミー賞には110もの部門がある。いくつかの例をあげてみると、最優秀ミュージカル・アルバム賞や最優秀ラテン・ポップ・アルバム賞、最優秀コメディ・アルバム賞など。それらの賞は、放送時間前の当日13時より、会場隣のロサンゼルス・コンベンション・センターにて発表が行われた(プレ発表と呼ばれている)。今回日本人のノミネートは3人。最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞に、コーネリアスの小山田圭吾、クラシックの最優秀歌唱パフォーマンス賞にメゾソプラノ歌手、藤村実穂子、最優秀レゲエ・アルバム部門にSoulJaだ。

出演者を乗せてきたであろう大型リムジン。リムジンは大して珍しくないロサンゼルスでもこのサイズはなかなかお目にかかれません

グラミー賞のチケットを持っている人は、誰でもプレ発表の会場にも入ることができるので、私もこのプレ発表の会場に足を運んでみた。東京ビッグサイトのような会場にパイプ椅子が置かれ、前方に設置されたステージの上で、発表が行われていた。ノミネートされているアーティストと観客の境はなく、私の隣や後ろの席から、名前を呼ばれた受賞者がステージに歩いていった。とてもカジュアリーな雰囲気だ。受賞者が発表されると、バンドの生演奏が始まり、その間、受賞アーティストが会場からステージに上がる。感激のあまり泣き出して言葉を詰まらせる人、とにかく「Thank you」を連発する人、震えながらあらかじめ用意してきたコメントを読み上げる人など、反応はさまざまだったが、受賞者の感動は、後ろの方にいた私にも十分すぎるほど伝わってきた。

続々とライブに登場する有名人たち

プレ発表が終わり、グラミー賞受賞式の会場へ。ロサンゼルス時間8日17時。いよいよグラミー賞本番だ。U2のライブからショーがスタート。洋楽に疎い私でも、さすがにU2は知っている。とにかく、自分の目の前であの有名なU2が歌っているということにただただ感動し、しばらくボーとなってしまった。開始から数十分経って、やっと会場の雰囲気を感じることができるようになってきた。そこで、会場をよく見てみた。一番盛り上がっているのは、ノミネートされた人やハリウッドスターなどのVIPが居るであろうステージ周辺。アーティストが出てきて歌う度に、フォーマルなドレスを着た女性や、タキシードの男性が、立ち上がり、ノリノリで一緒に踊る。まるでアイドルに熱狂するファンのようだった。これがアメリカ人のノリなのかな? と、ただただ驚くばかりだった。

グラミー賞の見どころの1つに、豪華アーティストによるコラボレーションがある。今回は、ショーの前半に、若手のジョナス・ブラザーズとスティービー・ワンダー、中盤に今回最優秀新人賞受賞のアデルと最優秀カントリー・グループ賞受賞のシュガーランド、後半には、ジョン・メイヤー、B.B.キング、バディ・ガイ、キース・アーバンの競演があった。こんな機会じゃないと決して見ることのできないコラボレーション、聞くことのできないハーモニーに、会場が沸いていた。

実は私、歌が大好きで何度か本格的に習ったことがある。そこでいつも言われていたことは、「体が楽器」だということ。歌手は、自分の体という楽器を使って音を出す。それは、頭で理解しても実際にやるのは難しい。今までに、たくさんの歌を聞いた。コンサートにも行った。けれど、プロと呼ばれる人たちでも、高音になると声がかすれたり、途中で息切れしたりする。自分の体を楽器として完璧に作り上げるということは、かなり難しいということだ。しかしやはり世界のレベルは高い。今回このグラミー賞の授賞式というステージで歌ったアーティストは約30組。当然ながら、声がブレたり、途切れたりするようなアーティストは全くおらず、これが世界で勝負することなのだ。

最後に最優秀アルバム賞をロバート・プラント&アリソン・クラウスが獲得し、ラストパフォーマーのスティービー・ワンダー(今回2回目の登場)が演奏し、2009年のグラミー賞受賞式は幕を閉じた。

最優秀レゲエ・アルバム賞ノミネートのSoulJa

はかま姿でSoulJaにインタビュー

受賞式の後、今回最優秀レゲエ・アルバム部門にノミネートされていたSoulJaさんにインタビューする時間があった。「今回、ノミネートされたことの感想は?」と質問すると、「ありきたりな言葉なんですが、光栄です! 音楽をやっていて、このような賞にノミネートされたことは、本当にうれしいです」とおっしゃっていました。また、私が一番盛り上がっていると感じたSoulJaさんも居たステージ周辺の席の雰囲気について聞いてみると、「賞を取るとか、取らないとかは関係なく、みんなが和気あいあいとして楽しかったですよ。Party of Celebrityという感じでした」とのコメントを寄せてくれた。SoulJaの今年の活動も楽しみだ。

イギリス出身のアーティストが多くの賞を受賞した今回のグラミー賞。今年は、どんな音楽が生まれ、どんなアーティストが私たちを楽しませてくれるのだろうか。