マクロスシリーズの監督・メカデザインを手掛けた河森正治氏が出演するトークイベント「SFアニメが現実に!? 激論ロボットトーク」が、機械産業記念事業財団の展示施設「先端技術館@TEPIA」において開催された。完全変形メカニズムを世に送り出した河森氏が、移動型ロボット「HallucII」を開発した古田貴之氏、筋骨格型ヒューマノイドロボット「小太郎」の開発者である水内郁夫氏とともに、ロボットの現在そして未来について語った。

右から水内氏、古田氏、河森氏、司会の乾貴美子

アポロ月面着陸に「先に行きやがって!」(河森)

少年時代は本物の蒸気機関車や飛行機、車などを見て興味を持っていたという河森氏。テレビでアポロ計画を見たときは「何でオレのロケットじゃないんだ!? 先に行きやがって! という生意気なことを考える子供でした」(河森)。

ビジョンクリエイター 河森正治氏
子供の頃から、機能や目的に合った"最適な形"に対する憧れがあったという

千葉工業大学未来ロボット技術研究センター所長 古田貴之氏
ロボットのデモより「今日は動く河森さん見られたほうが貴重です」

東京大学情報理工学系研究科知能機械情報学専攻講師 水内郁夫氏
筋骨格型のロボットを開発しているのは、世界でも水内氏のチームだけだという

古田氏は「アニメのロボットで、初めて機能美を形にした」とバルキリーを絶賛する"バルキリーコレクター"。アニメ誌でガウォーク形態を見て「何て変な格好なんだろう」と思ったが、動いているところを見ると「正に機能美!」。自らモデルを変形させる河森氏を目の前に、戦闘時におけるガウォーク形態の利点を並べ立てては「理に叶っちゃってるんですよ!」と興奮気味だった。

河森氏が変形させるバルキリーに、「タカトクトイスから出てたモデルのバンダイの復刻版ですね、足のヒンジが金属なんでわかるんですよ(古田)」

デスクの横に「バルキリーコーナー」があるという古田氏

そんな古田氏は子どものころ、アニメによくある"ロボット博士"になりたかったという。「博士が設計図を小脇にかかえているのに憧れて、小学生の時に機械設計製図の勉強を(古田)」したという強者ぶりを披露。また、水内氏は電子工作が好きでラジオやインターフォンなどを作っていたそうで、マイコンが出てくると「BASICでプログラムを書いていた」という。

マクロスにはあまり詳しくないという水内氏に、「伝授しますよ!」と鼻息も荒い古田氏。「今、知識やノウハウを持っている状態で『愛・おぼえていますか』を見て下さい」と技術的な視点での鑑賞を勧めていた。

「板野さんと模擬空中戦」……リアルな体験が作った表現力

河森氏はこれまでの作品を振り返ったうえで、「今は(インターネットなどで)何でも表面の情報が手にはいるからこそ、ホンモノをやりたい」と述べた。『マクロスプラス』制作時には、作画の板野氏とともにアメリカに渡り、実際に飛行機の操縦を習ったうえでそれぞれ教官同乗で練習機に乗り、模擬空中戦を体験してきたのだという。

それまでのアニメや映画の戦闘シーンは、地上からの視点による描写がほとんどだったのに対し、板野氏は「ミサイルが飛び交うような描写をしたほぼ初めての人。"板野マジック"とか"板野サーカス"と言われていた」と古田氏が解説。河森氏は「自分も動きながら見る視点を入れないと、生きた感じが出てこないんですよね」と、ものを作る際における"実体験"の重要性を強調した。

一方『創聖のアクエリオン』では、河森氏の長年のテーマである「人がなぜ人型のロボットに憧れるのか」に注目。各地に存在する巨人伝説などから、"大きな人型"は人間の能力や可能性が拡張された"大きな存在"の象徴だと考えた。そこから「合体で兵器としての能力を拡張するロボットはこれまでもあったが、感覚の拡張というのをやってみたかった」という発想が生まれ、ロボットが合体することで搭乗者の視力・嗅覚・特殊能力などが拡張されるというコンセプトにつながっている。

アイボやデュアリスなどの、デザイン段階のスケッチも紹介された

アイボのデザインでは発想がシステムに制約される部分が多かったという

デュアリスでは、クライアントの意向により物理的な整合性はあえて無視

パワードスーツらしさを出すため、透明なルーフのイメージを活かして人が見えるように

乗れる"ガウォーク型"ロボット、実現なるか?

古田氏は現在、2~4キロワットという強力なモーターを搭載した搭乗型ロボットを開発中。目的に合わせて変形する機能もあり、プロトタイプの段階から「ガウォーク形態やるよ!」と主張していたが、今回のイベントを機に"家元"河森氏へのデザイン依頼が実現する可能性が。河森氏も乗り気な様子だった。

目的地まで自動操縦で移動できる搭乗型ロボットを開発中

個体でセンシングするという固定概念を脱却。街中のセンサーから周囲の情報を受けてナビゲーションする

今回デモが行われた多脚移動型ロボット「Halluc 2」。同型の黒モデルと比べてこの機体は「3倍速い(古田)」

Halluc 2はコックピットからも操作が可能。この操作系は搭乗型ロボットにも応用される予定だ

水内氏が開発した「小太郎」は、関節部分にモーターを入れて動かすのではなく、骨格に取り付けた"筋肉"で動かすことが最大の特徴。関節の角度は、ジョイント部分に施したマークの移動を内蔵のカメラで読み取り画像処理することで認識しているという。現在、より柔軟な動きを実現する「小次郎」を開発中だ。

関節をモーターで動かすロボットと異なり、3次元的な関節では可動範囲が広く動きのパターンが多い

骨格と駆動構造が別になっていることで、骨格の設計を変えず"筋肉ユニット"の追加で力を増していける

「ロボットはまだまだダメだなと」

これからのロボット開発について、古田氏はロボット単機の機能ではなく「社会インフラや地球の生態系まで含めて、モノや技術を考えなくてはいけない」という。また、水内氏は「リアルを経験することがすごく大事。リアルな世界でものを創ることを経験してほしい」と来場者へのメッセージを述べた。

想像の世界で作品を作る河森氏も、物理的な世界で技術開発をする古田氏・水内氏も、実際に体験して理解することの重要さや、人間の身体や感覚の奥深さに対する興味を、それぞれの表現で口にしている。

人間の身体は、現在のどんな技術を集めても作り上げることはできない。「自分の体がどうなっていてどう動いているのか、どんな機能やセンサーを持っているか考えるだけで、何もいらないくらい面白い」という河森氏に、「まだまだテクノロジーは未熟」(水内)、「ロボットはまだまだダメだなぁと」(古田)と、ロボット開発の先端を行く両氏も賛同。ロボットの未来は、人間がどれだけ自分を理解できたかによって創られることになるのかもしれない。

トークイベントの時間が終了しても話が尽きない様子。今回のイベントを一番楽しんだのはご本人たちかも

……次ページでは、河森氏の直筆メカデザイン原画展を紹介