電池はできるだけたくさん、三脚は不要

その他には、どんな機材を持っていけばよいかと聞くと、小泉さんは明朗に答えてくれた。まずはデジカメの充電器を忘れないこと。機種によっては専用バッテリーしか使えず、バッテリー切れになると撮影が続けられなくなる。とくに寒冷地では、バッテリーの消耗が早い。バッテリーはできれば1つではなくスペアも用意するとよいそうだ。もしふつうの乾電池も使える機種なら、できるだけ日本で多めに購入して持っていこう。国によっては入手が難しかったり、あっても高価だったりするからだ。

三脚もつい持って行きたくなるが、「不要です」と小泉さん。今のデジカメはISOを自由に上げられる。ISO600位に設定してもほとんどノイズが出ない。後で画像処理ソフトによる処理も可能だ。「写真芸術とは本来、ノイズが表現の一手段だった。昨今の婦人誌などの高画質追求の影響か、ノイズを嫌う傾向が強いが、もっとノイズを表現として前抜きに捉えては」と、小泉さんは考える。

ちなみに画像処理ソフトだが、デジカメを買うとついてくるカメラメーカーの付属画像処理ソフトで用は足りると小泉さんはいう。世界標準であるPhotoshopは使えれば得だが、たとえば全紙大にプリントしようなどという場合でも、付属ソフトで機能的に充分だとのこと。簡単に使えるし、新たに購入する必要もない。覚えておいて損はない情報だ。

機材より重要な事前の勉強とスケジュール作り

機材の準備も大切だが、実はもっと大切な準備があると小泉さんは力説する。それは、「撮影する世界遺産についての知識」だ。歴史や情報を勉強することで、何を撮影するかが見えてくるという。ふだん自然や家族、愛犬など好きなものを撮っている人が、世界遺産のような文化的建造物を前にすると、どこを撮っていいのかわからなくなるそうだ。折角、自分で赴いて写真に収めたとしても、建物の正面でなかったり、世界遺産の一部だけを収めてしまう、なんてことはよくある失敗例だという。そのために事前の勉強は欠かせない。そんなとき小泉さんのお勧めが、世界遺産アカデミーでも出されている世界遺産検定の関連本だ。それらには、世界遺産の必要な情報がビジュアル付で網羅されてまとめられており、必携だという。必要な情報をPCに入力しておけば、後で写真を整理したり発表する際にも役立つ。

これが小泉さんが実際に"撮影旅行"で使用したスケジュール表。小泉さんは実際に撮影旅行を、クラブツーリズムにて年2回実施している

世界遺産を勉強して撮りたいものが見えてきたら、次に撮影のスケジュール表を作成する。小泉さんが撮影旅行に出る際には、A3の紙に旅行会社がくれる移動予定を書き込み、そこにその場所でいつ、何を撮影するかをメモしていく。なるべく詳しく、事細かに書くのが秘訣だそうだ。事前の準備の中で、実はこのスケジュール表の作成が、撮影の成否をわけるもっとも重要な作業だと小泉さんは強調した。

スケジュール表は現地に赴いたら、折り畳んで、当日部分だけを見えるようにする。メモされた項目の写真が撮れたらチェックする。こうすることで撮り忘れがなくなり、必要なカットを押さえつつ、さらにプラスアルファの写真を撮るゆとりも生まれる。ほとんどの人がこうしたスケジュールを作らないため、肝心のカットを撮り忘れたり、撮影の順序を間違えてしまい、撮れるはずのものを撮り逃すという失敗を犯すそうだ。趣味とはいえ、写真を撮るには計画性が重要だと、小泉さんはアドバイスしてくれた。次回は、同じく小泉さんによる撮影テクニック編をお伝えしていく。

小泉澄夫(こいずみ・すみお)


東京生まれ。日本写真芸術学会会員、世界写真フォーラム主宰。「日本人の心」をテーマに風景写真を30年以上撮り続けている。1998年より、世界遺産の制度主旨に賛同し、各地の世界遺産を取材。『世界遺産 ビジュアルハンドブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)をはじめ、雑誌等で世界遺産の訴求に努める。2000年11月、フランス・パリで個展『日本人の心』を開催。
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