世界中を回って、世界遺産の写真を撮り続ける小泉澄夫さん

世界遺産写真家の小泉澄夫さんは長年、ヨーロッパやアメリカ、中国を中心に世界各地の世界遺産を訪れ写真に収めている。その数100ヶ所以上。小泉さんのすばらしい作品の数々は、世界遺産アカデミー監修の「世界遺産ビジュアルハンドブックシリーズ」(毎日コミュニケーションズ)でも見ることができる。世界遺産という、いわば横綱級の被写体に向かって、いったいどうすればアマチュアでもその魅力を伝えうる写真が撮れるのか。小泉さんにその極意を3回にわけ、教えてもらうことにした。第1回は、撮影旅行の事前準備編だ。

旅行時のカメラはコンパクトデジカメで充分

まずは撮影になくてはならないカメラ。世界遺産ほどの大物を撮影するとなると、やっぱり本格的な一眼レフカメラが必要ではと考える人もいるのではないだろうか。ところが小泉さんは「コンパクトなデジタルカメラ一台で充分」との意見。撮影旅行というより、なんだかふつうの観光旅行のようで、ちょっと心もとない気がする。ほんとうにコンパクトカメラでいいんですかと訊ね返すと、小泉さんからは実に明快な答えが返ってきた。

「写真は機械が作り出す芸術。いいカメラで撮るに越したことはないが、現在出ているコンパクトカメラなら性能的に決して不足はないんです。加えて、小さく軽いので持ち運びやすくて荷物にならない。とくに手荷物が制限される海外旅行では、なおさら小さい方がいいだろう。

また世界遺産、とくに文化遺産では建築物を撮ることが多くなる。その際にもコンパクトカメラはメリットがあるという。建築写真では必然的に広角レンズを使うことになるが、コンパクトカメラは元々広角レンズがベースのレンズになっている。一眼レフカメラのようにわざわざ通常のレンズと別に広角レンズを持って行く必要がない。この点でもコンパクトカメラは荷物が減らせることになる。

荷物が多くなる海外での撮影旅行なら、一眼レフよりコンパクトカメラの方が総合的に便利

メモリは2GB、1GB×2枚持ちが安心安全

ここぞとばかり写真を撮りまくるであろう世界遺産での撮影。メモリーカードはどれくらいの容量・枚数を持っていけば安心して撮影できるのか? 「そうですね。2GBか、多くても4GBあれば充分だと思います」とのこと。それだけで大丈夫なんだろうかと思ったが、実際、プロの写真家である小泉さんもその程度しか持っていかないというから驚きだ。その理由は、ファイル形式にある。より画質が優れるものの、データ容量も大きいRAW形式はほとんど必要なく、基本はJPEG FINE形式で撮影すれば画質は充分で、その分データ容量も小さくてすむのだという。

JPEG FINEで撮影すれば、プリントするにしても、画像処理ソフトでちゃんと処理すれば全紙程度の大きさにまで引き伸ばしても何の問題もないそうだ。写真展に出すような場合でも、JPEG FINEの画像は充分に対応できる。データ容量が大きく、パソコンでのプレビューも専用ソフトが必要になるRAW形式は、ほとんど意味の無いことになる。まして最近のようにブログなどウェブサイトでの公開となれば、RAW形式は必要ない。それでもやはりRAW形式のデータにこだわるのなら、どうしてもというカットだけをRAWとJPEG FINEの両方の形式で撮影しておけばよいと小泉さんよりアドバイスをいただいた。

万が一の紛失や故障といったトラブルを考えると、メモリーカードは2GBを1枚持つより2枚(1GBずつ)持った方が安全だともいう。ちなみに小泉さんは、一日の撮影が終わると撮影した画像を持参したストレージへ移し、メモリは初期化して翌日に備えるそうだ。「PCを持っていかないんですか?」と尋ねると、PCはノート型であれ荷物になる上に、旅行中に撮影画像を画面上でいちいちチェックする暇はないから持っていかないという。「最近のデジカメは性能がいいから撮り損なうということはなく、チェックの必要があまりないですね」と小泉さんは語る。いくら性能がよくても、一般の人なら撮り逃しが気になるところだが、確認作業のためにPCを持参するのは荷物が増えるだけ。モニター画面でのチェックで不安を感じたら再度撮影、というところがいいのではないだろうか。