――そういったいろいろある中でも、やはり最大のヒット作といえば……。
なをき「定番中の定番は、石森章太郎(当時。現・石ノ森)先生の『マンガ家入門』ですね。ある一定の世代には、"呪い"とまでいわれるものですな(笑)」
――まさにバイブルとも呼ぶべき本だったようですね。
なをき「我々よりちょっと上の世代だと思いますね、その呪いに引っかかったのは。これを読むと、誰でもみんな、"よし、オレはマンガ家になるんだ!"と、強烈に思うようになってしまうという」
よしこ「マンガ家になりたくなる呪いが……」
なをき「かかってるんですね、これが。この影響力たるや、もうおそろしいほどですよ。だいたい読んでるんですよ、ウチの兄くらいの世代のマンガ家さん(笑)」
――まんまと術中にはまってますね。
なをき「まんまと。大ヒットだったと思います、これ。さすがは石ノ森章太郎。ページのはしばしから熱気がただよってくるようです。まさに名著。実は私、続編から買ったんですね。こっちのほうは、"『マンガ家入門』、感動しました! 僕、絶対マンガ家になります!!"というお便りが頭から尻尾までいっぱい載ってる本なんです(笑)」
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石ノ森章太郎先生の『マンガ家入門』(画像左)と『続・マンガ家入門』(右)。続編は当時入手なさったもので、その分痛んでいるのが分かる |
――すっかり影響を受けた人たちが……。
なをき「もう感動、これ極った決意表明みたいなのが、えんえんと載ってるんですよ。これ読むとホントに泣けるんです。いかに、"僕は今までなんにも考えないでマンガを読んできたか。これで目が覚めた"と。そういうファンレターがいくつもいくつも」
――完全に説得されてますね。
なをき「それを読んでそこから逆算して、そんなに大した本だったら、どんな本じゃろかいと思って、わざわざ正編を買ってもらったんですけど、いや、確かにすごかった。それでね、いっぺん友だちに貸したら失くされてしまって。その友だちももう、感動のあまり手放さなかったんでしょうな。これは大人になってから、もう一度買い直したものなんですけどすごいよ、1974年で36版だって。初版は1965年」
――正編には、どういったことが書かれているんでしょう?
なをき「一番有名な部分は、名作の誉れ高い『龍神沼』。石ノ森先生がお描きになったこのマンガを丸々1本紹介して、それをテキストにして、"このコマは、どういう意図のもとに描かれたか"とか、"ここの演出は子どもには分かりにくかったかもしれないけど、僕はこういう想いを込めて描きました"とか、そういう石ノ森先生のマンガ演出の"秘伝"をひとコマひとコマ親切丁寧に説明してくれてるわけですよ」
――石ノ森先生ご自身が、自らネタを明かしてくださるわけですね。
なをき「これはやられますね、確かにね。今までなんの考えもなしにマンガを読んでいた自分がいかにバカ者であったか、ということが繰り返し、分かる仕掛けになっているのね」
――どれだけ細かく計算して描かれているのかと。
なをき「オヤツ食いながらボーッとマンガみてる子どもは見逃してしまうような、ちょっとした背景の風のささやきであるとか、木のざわめきであるとか、そういうことにいかに意味が込められているのか、ということがわかってしまうんですよ、これを読むと」
――なるほど、それはすごいですね。
なをき「これを読んだ人は、マンガマニアになってしまいますって。マンガ家になる以前に。世界が一気に広がるんですよ。マンガを読み解く楽しみに開眼させてくれるんだな」
――マンガを分析するという楽しみ……。
なをき「はい。ですからこれは、よしんばマンガ家になれなくても、人をマンガオタクにしてしまうという、おそろしい魔力が秘められている本なんですね(笑)」