73億円もの興行収入を得た、大ヒット映画『花より男子ファイナル』。このたび、大ヒットを記念して、プロデューサーを務められた瀬戸口克陽氏、監督の石井康晴氏による特別講義が、デジタルハリウッド大学秋葉原メインキャンパスにて行われた。感動の名シーンは、どのような過程で作られたのか? 魅力的なキャスティングは、どのように進められたのか? 「花男」(ハナダン)シリーズ、その全貌がついに明らかになる。

瀬戸口克陽氏(左)と石井康晴氏

テレビドラマ『花より男子』誕生の瞬間

2005年のテレビドラマ化の企画を立ち上げたプロデューサーの瀬戸口克陽氏は、「花男」との出会いについてこう語る。「テレビドラマの題材を探すとき、TSUTAYAや書店をまわることが多いんですが、たまたま渋谷の大盛堂書店というところの地下で、『完全版 花より男子』(全20巻)に出会ったんです。姉がいたので昔読んだことはあったのですが、改めて読み始めるとこれが非常に面白くて。それがまずきっかけでしたね」

この大人気コミックは、1995年に公開された内田有紀主演の実写映画をはじめ、数々のクリエイターによって何度も映像化・アニメ化されてきた。では、いまなぜもう一度「花男」だったのか?

瀬戸口「ドラマの立ち上がり方には3パターンあるんです。ひとつは脚本家ありきのパターン、次にキャスティング主導のパターン。そして2000年代以降特に多くなってきたのが、原作があるパターンです。2005年当時は、少女マンガを原作にすると、特定の世代にしか興味を持たれないため、連続ドラマには向いていないと思われていましたが、やりようによっては面白くなるんじゃないかなと思っていた、その年の夏のことです。秋に放送を予定していたドラマの企画が頓挫しまして、忘れもしない8月18日に、秋のドラマをやってみたいだろ、と突然持ちかけられて(笑)。遅くとも3カ月前には主要キャストが決まっているのが当たり前なのに、クランクインまでが実質一ヶ月を切っているという、まさに異例中の異例というスタートだったんです」

「花男」シリーズのスタートは、波瀾万丈と言えるものだった。しかし、視聴者にとっては、一ヶ月前だろうが、3年間準備していようが、制作者の都合は関係ない。「ピンチをチャンスに変える」、それからが、スタッフたちの戦いの始まりだった。

瀬戸口氏は東京大学経済学部を卒業後、1996年にTBS入社。情報番組のスタッフを経て、1998年よりドラマ制作の道へ。以後、『GOOD LUCK!!』(2003年)、『砂の器』(2004年)、『Around40~注文の多いオンナたち~』(2008年)など多くのヒット作を手がけている。

つくし、道明寺、花沢類…気になるキャスティング

瀬戸口「まず、時間がないことを言い訳にしない、と決めたんです。すぐに集英社さん、作者の神尾葉子さんに会いにいってプレゼンをしました。要するに、眠らなければいいんです(笑)。そうすれば、1カ月は2カ月になるんですよ。ドラマの作り手の三原則は、寝ない、逃げない、あきらめない。これですね(笑)」

そして、気になるのはキャスティングである。牧野つくし、道明寺司、花沢類…。『花より男子』の面白さは、その魅力的なキャラクターにあると言っても過言ではない。イメージに合う役者たちを、どのように見つけ出したのだろうか?

瀬戸口「井上真央ちゃんについては、この子は牧野つくしを演じるために生まれてきたんだな、とマンガを読んだときにもう頭に浮かんでいました。事務所の方とも知り合いだったので、迷うことはなかったです。道明寺役は、俺様キャラをコミカルに演じられ、かつリーダー的な雰囲気を持っている方がよかったんです。『ごくせん』に出ていた松本潤くんは、アクが強くて個性的で、イメージにぴったりでした。彼ははじめ、僕はどちらかというと花沢類じゃないですか? と言ってたんですけど、演じていくうちに納得してくれましたね」

石井康晴氏は早稲田大学を卒業後、1992年TBS入社。『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)、『クロサギ』(2006年)、『冗談じゃない!』(2007年)などの演出を務め、『映画 クロサギ』で映画監督デビュー。本作で映画2作目となる。

「花男」キャラ人気投票でも圧倒的にNO.1、特に女性から絶大な支持を集めるキャラクター・花沢類は?

瀬戸口「何を考えているのかわからないけれども優しさをたたえているという、これも難しい役どころで。つくしの初恋の相手として説得力がなくてはならないし、道明寺と二枚看板を張れる人ということで、小栗旬くんを選びました。彼は今のようにブレイクする前でしたが、芝居の力があるな、と注目していたんです。スケジュールが空いていないところを、『小栗くんじゃないとこの役はできない』と説得し続け、マネージャーさんに手紙を書いたりもして承諾してもらったんですね。彼も『寝ないで頑張りますよ』と言ってくれたのは忘れないです。それから美作役の阿部力くんは、映画の撮影で台湾に行っているという情報をつかみ、日帰りで台湾に行って(笑)、交渉したんですよ」

こうしてキャスティングが決まり、ついに撮影がスタート。井上真央、松本潤、小栗旬、松田翔太、阿部力…。当時はまだブレイク以前だった彼らだが、ドラマの人気は急上昇。会社から「(視聴率)5%獲れればいいから!」と言われていたドラマは、2005年秋クールでNO.1の視聴率を獲得、年間でも4位につけるという快挙を成し遂げたのだった。 このように、奇跡的と言えるヒットを遂げた「花男」だが、当初から「このドラマは絶対にヒットする」と確信していた男がいた。その理由とはいったい何だったのだろうか?……続きを読む