イギリス人の作る映画ってホントにワケがわからない。とくにコメディ。少女マンガよりもありえねーベタベタなラブコメがあると思ったら、皮肉が効き過ぎて意味不明なギャグやらパロディやら、いったいどういう企画で出てくるんだ!? オイラも何度ガッカリさせられたことか……。それでも性懲りもなく見てしまうのは、ときどきとんでもなくデキが良いのがあるからだ。でもその手の映画って大抵どマイナーで、日本では単館上映どころか、DVDが発売されればまだマシ。ひどいのになると、欧米でそこそこヒットしてるのに、日本じゃそんな映画があることさえ知られてないモノさえある。

この『ホット・ファズ』もそんな「埋もれた名作」になりかけた1本。なんせ本国イギリスでは2006年に公開された映画だ。そのままじゃ日本で話題に登ることもなかった。それが公開まで漕ぎ着けたのは、ご存じネットの威力。海外でこの映画を見た人のブログから火がつき、評判が評判を呼んでネット上の署名運動に発展、ついに配給会社を動かしたというワケ。

ツッコみたい気持ちはわかります! でもここはこらえて読み進めて!

監督、脚本のエドガー・ライト、共同脚本と主演のサイモン・ペッグのコンビといえば、『ショーン・オブ・ザ・デッド』というゾンビのパロディ映画(これも日本じゃDVD発売のみで未公開)でマニアには知られた存在だ。この2人、アメリカの刑事映画やドラマも大好きで、監督の故郷であるイギリスの片田舎を舞台にアメリカ風刑事アクションを撮ってしまった、というのがこの『ホット・ファズ』だ。

主人公のニコラス・エンジェル巡査はロンドン警察きっての敏腕捜査官。警察学校を首席で卒業し、検挙率はぶっちぎりのダントツ。機械のように完璧な男だが、それがかえって上司や同僚に疎まれ、田舎に左遷されてしまう。まあ、いくら仕事ができても愛嬌ゼロでニコリともしないから、職場じゃ浮きそうなタイプだ。このエンジェルを演じるのがサイモン・ペッグなんだけど、オタク系風貌のペッグじゃ、いくらなんでもこの役は無理あるだろと思ってた。でも実際見てびっくり、どこから見ても堅物のスーパー警官だった。この役作りはお見事というほかない。

エンジェルが飛ばされたのはサンドフォードという田舎村。村民全員が知り合いみたいなところで、凶悪犯罪なんか起こりそうもない。仕事はデスクワーク中心になるわけだが、万引き犯を捕まえて写真を撮ったり、その報告書を書くシーン、つまり警察の一番地味な仕事を『CSI:』ばりのカッコイイ止め絵ショットで見せる演出が笑える。さすがに刑事ドラマオタク、よーく研究してるよ。

仕事が来たと思えば白鳥の捕獲だったり

そんなエンジェルにパートナーとして当てがわれるのが、署長の息子のダニー(ニック・フロスト)。こいつが絵に描いたようなダメ息子で、しかも刑事映画オタクという設定(笑)。エンジェルを刑事ドラマのスターみたいに思ってて、「人を撃ったことある?」なんて聞いたりする。もっとも他の署員も似たようなもので、警察らしい仕事なんかしたことがない。

左がエンジェル(サイモン・ペッグ)、そしてその相棒ダニー(ニック・フロスト)。この2人と監督のエドガー・ライトはプライベートでも大の仲良し

そして、このダメ警察よりも村内で幅をきかせているのがNWA(Neighborhood Watch Alliance : 近隣監視同盟)といういかにもな集団。名前だけで笑っちゃうが、村の長老や有力者によるネットワークだ。サンドフォードは"ビレッジ・オブ・ザ・イヤー"を何度も受賞してて、今年もそろそろ審査の季節。受賞を狙うNWAの面々は、毎夜集まっては、夜遊びしてる高校生がいるなど、細かい風紀の乱れを報告し合っている。ダニーの父親の警察署長もメンバーだ。そしてリーダー格は、サンドフォードただひとつのスーパーの店長のスキナーという胡散くさーいオッサン。このスキナーを怪演しているのが4代目ジェームズ・ボンドでおなじみのティモシー・ダルトン。さずがの存在感ですな。

御年62歳の貫禄

パトロールより特売DVDのほうが大事な相棒

ストーリーは、エンジェルが赴任してまもなく、事件らしい事件がなかったサンドフォードで人が怪死するところから動き出す。エンジェルは殺人と見て捜査を始めるが、村人も他の署員も事故死と言い張って取り合わない。相棒のダニーも父親の手前、及び腰で頼りにならず、さらに孤立するエンジェル。そのうち第2、第3の死者が……。この辺の殺しのシーンはかなりホラー映画風味だね。『オーメン』が懐かしい!

この後の度重なる捜査妨害、そしてエンジェル自身にも魔の手が迫り、ついに生真面目なエンジェルもぶち切れて暴走、犯人たちに宣戦布告となる。ダニーもこれに参戦し、かくしてイギリスの片田舎を舞台に、ど迫力刑事アクションが繰り広げられることに。これが一切妥協なし、ハリウッド製と言われても通るくらいのデキだ。パロディといえども、いやパロディだからこそ、ディテールに凝らなきゃダメだね! そしてそして、なんと最後は「怪獣映画」になってた(笑)。サービス精神もご立派です。

後半のド派手アクションは超必見。ムダに飛ぶわ、二丁拳銃だわ、もうネタてんこ盛り

チャリのおばちゃんも二丁拳銃でブッ放すぜ!

サービスといえば、この映画の多彩なゲスト出演者も見もの。でもピーター・ジャクソン(『ロード・オブ・ザ・リング』の監督)とケイト・ブランシェットは、どこに出てるのか後で調べるまでわからなかった。この2人の出演シーンが前情報なしでわかったらエライよ!

ホット・ファズ-俺たちスーパーポリスメン!-

本国イギリスでは3週連続NO.1(公開3日間で約12億円)を記録した本作、劇場公開を求める2,500名超の熱き署名を受け日本公開が決定!

イカした警官コンビがぶちかます革命アクション・コメディ。
ロンドンの熱血エリート警官、ニコラス・エンジェルはあまりにも優秀な為、仲間が見劣りすると妬まれ、左遷される。やってきたのは犯罪とは無縁の田舎町、サンドフォード。
警官も全く緊張感がなく平和なこの町で、ある日残忍な殺人事件が次々と巻き起こる。警官魂に火がつき、独自で捜査を始めたエンジェルは、平和な町に隠されたとんでもない事実に気づく。
警察映画マニアで銃撃戦が夢のダニー巡査を相棒に、立ち上がるエンジェルを待ち受けていたのは……。

出演:サイモン・ペッグ / ニック・フロスト / ビル・ナイ / スチュアート・ウィルソン / ティモシー・ダルトン / ジム・ブロードベントほか
監督・脚本:エドガー・ライト

7月5(土)渋谷シネマGAGA! 他全国順次ロードショー

(C)2006 Universal Pictures International. ALL RIGHTS RESERVED.