幕張メッセでこのほど開かれた、アジア最大級の食品・飲料トレードショー「FOODEX 2008」。その一角に、過去最大規模となるパビリオンを出展したニュージーランド貿易促進庁(以下、NZTE)の北アジア統括理事、ロッド・マッケンジー氏は「ニュージーランドは本気です」と力を込めた。何が本気なのか。それは食品・飲料分野におけるニュージーランド企業の日本への市場参入促進に他ならない。

農業生産物の約6割を輸出するニュージーランド

日本とニュージーランドは、需要と供給の関係にある。人口約400万人のニュージーランドは農業を中心とした国家。全人口の5人に1人が食品・飲料産業に従事し、同国内で生産された農業生産物の約6割は世界180カ国に輸出されている。一方の日本は、食糧の約6割を輸入に依存する世界最大の食糧輸入国。日本はニュージーランドにとって3番目の輸出相手国であり、ニュージーランドの重要な貿易パートナーと言っても過言ではない。

ロッド・マッケンジー氏は、民間部門でも広報・マーケティングコンサルティング分野の幹部として、長期にわたる経験を有する

NZTE日本・韓国地域局長のショーン・コンロイ氏

現在、ニュージーランドにおける食料と飲料の対日輸出額は約15億NZドル(約1,275億円)、過去10年で13%以上増加しているが、コンロイ氏は「日本への輸出額はまだ伸びる可能性がある」と強調する。ニュージーランド政府は2007年7月、国内企業の市場参入等を支援するため1,900万NZドル(約16億1,500円)を追加予算として拠出。また、11日にはニュージーランドの牧畜と食料産業の研究・開発や国際的なアピールなどのため、今後10~15年で日本円にして約700億円を投下すると発表した。

日本への輸出額はまだ伸びる-。この要因として考えられるのが「日本国民の食の安全への関心」である。2007年はミートホープの牛肉偽装発覚や、石屋製菓「白い恋人」賞味期限改ざん、名物菓子「赤福」の34年間にわたる消費期限不正表示など、食品偽装事件が多発。2008年に入っても中国製ギョーザの中毒事件が取りざたされるなど、日本国内における安全で安心な食の確保に対するニーズは高まるばかりだ。

ニュージーランドではBSEなど深刻な家畜の病気が発生したことはない。また、成長促進ホルモン剤と抗生物質の使用量は厳しく管理されている

そうした日本の事情に対し、コンロイ氏は「輸入に依存している日本は、安全で安定的な食糧市場を求めているし、ニュージーランドでは日本のニーズに応えられる食品・飲料を用意する準備が整っている」と自信をのぞかせる。それは、ニュージーランドが国と業界を挙げて長年、食の安全維持に取り組んでいる経緯によるところが大きい。

キーワードは「サステナビリティ」

政府の具体的な取り組みとして2002年、食品安全に特化した機関である「ニュージーランド食品安全庁」(現ニュージーランド食品安全省)を設置し、輸出入される食品の安全を管轄。また2007年2月には生産物の持続可能な発展を意識したビジネス環境づくりを含む「サステナビリティ政策」を発表し、環境に配慮しつつ安全な食品を安定的に供給する取り組みも始まっている。

たとえば酪農業。家畜は放し飼いによる通年放牧を基本としており、牧草以外の補助飼料が使用されることが制限されている。このような取り組みを裏付けるように、ニュージーランドでは国際獣疫事務局により、牛海綿状脳症(BSE)のない国として認定されている。また海産物では、主要な漁業資源の保護を目的とした、ニュージーランド漁業の漁獲枠管理システム(QMS)を採用しているほか、ニュージーランドの重要な輸出品種であるグリーンシェル・マッスル(ムール貝)について、独自の環境基準を決めて肥料や除草剤、殺虫剤、人口飼料の使用を一切禁止している。

「FOODEX 2008」内のニュージーランドパビリオン

パビリオン内では、ゴールドキウイのお酢など珍しい商品が並んでいた

ニュージーランド企業の食品・飲料分野における技術革新(イノベーション)も目覚しいものがある。ゴールドキウイやアボガドオイルは世界で始めてニュージーランド企業によって製品化。ほかにも、乳牛に負担をかけない形で搾乳した低脂肪牛乳や、殻についたままのオーガニックカキなど「企業が健康に関心を持つ消費者に向けて、食品や機能性食品を開発することで、輸出を伸ばしてきた経緯がある」(同氏)。あとはいかに、日本市場により売り込むか、だけなのだ。

ニュージーランドのオイスターにグリーンシェル・マッスル

フレッシュで多彩な風味を持つニュージーランドのワイン。

FOODEX出展で見えてきた、ニュージーランド産の素晴らしさと今後の展開

そうした今後の戦略の1つとして、FOODEXのパビリオン出展は位置づけられている。「このような大規模な展示会に出展することで、メディアの方々、ホテル・レストラン関係者、小売業者に対して、ニュージーランド産の素晴らしさをPRしていく」(同氏)考えだ。その他、ハイレベルな諮問委員会を設立し、非常に影響力のあるビジネスマン、ビジネスウーマン、社長、会長とコンタクトとりながら、日本市場へ売り込む際の障壁を特定。その障壁をいかに取り払うか、テクニカルな情報提供をニュージーランド国内に向けて行っていくとした。

マーティン・ボズリー氏によるクッキングイベント

FOODEXのパビリオン内では、ニュージーランドの先住民マオリによるセレモニーが行われたほか、ニュージーランドのフルーツや海産物、ワインなどが紹介されていた。また、今回は2階スペースにVIPルームを特設し、各種イベントを開催。なかでも、マスコミを対象とした試食セッションでは、ニュージーランドのグルメ雑誌で2007年度レストラン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた「Martin Bosley’s」のオーナー兼シェフ、マーティン・ボズリー氏がニュージーランド産の食材を使用したクッキング・デモンストレーションを実施。安心・安全で美味しいニュージーランド産食材を使った料理を振舞った。こうしたイベントを通して、ニュージーランド産食品・飲料の素晴らしさを語りかけた今回の「FOODEX2008」。最後にコンロイ氏は「原材料としては、日本国内のホテルやレストランで既に使われている食材も多い。あとはいかに認知度を上げるかです。環境に恵まれ、食品を作る過程においても食品安全に厳しい基準を設けているニュージーランドだからこそ、日本の皆様に安心して口にしていただける素晴らしい食品を用意できるのです。是非ニュージーランドの食品・飲料をできるだけ多くの日本人に食べていただきたいですね」と締めくくった。

ニュージーランドの先住民マオリによるセレモニー

マーティン・ボズリー氏による料理の数々